36歳、長友佑都の覚悟が伝わってくるようなゲームであった。

 

 FC東京は3月12日、ホームの味の素スタジアムに横浜FCを迎え、3-1と快勝。開幕戦以来3試合ぶりに白星を手にした。

 

 目を引いたのが、2-0で前半38分から出場したベテランである。右サイドバック中村帆高の負傷によってピッチに入ると攻守において躍動。後半10分には相手からボールを奪い取ってドリブルで前進し、初先発のルーキー、FC東京U-18出身の俵積田晃太に決定的なパスを送る。ゴールには至らなかったものの、その7分後にも彼は決定機をつくり出す。右サイドでボールを受けて1対1で仕掛けてからクロスを送り、ディエゴ・オリヴェイラのこの日2得点目となるゴールをアシストしたのだ。

 

 後半途中にバングーナカンデ佳史扶がピッチを退いてからは“本職”の左サイドバックに回ってプレー。課せられた役割をしっかりと果たしてチームの勝利に貢献している。

 

 試合後の取材エリアでは充実そうな表情を浮かべる彼がいた。

「(アシストの場面は)勝負するという気持ちが強かった。クロスからのトレーニングもかなりやっていたので、中の人数をもしっかりといましたし、大体の(狙いの)ボールでも決めてくれました」

 

 開幕から4試合を終えて先発出場は前節の京都サンガ戦(3月4日)のみ。ただ本人は先発だろうが、控えスタートだろうがこだわりは一切ないようだ。

 

「チームの勝利に貢献すること、そして優勝してシャーレを掲げることが目標なので、どんな形であれチームに貢献できればいいと自分は思っている。スタメンで出ても貢献できますし、途中から出てもしっかりと仕事をまっとうする。その気持ちだけです」

 

 彼はそうきっぱりと言い切った。

 

 勝利のため、チームのため――。

 

 俵積田に何とか得点を取らせて自信を持たせてあげたいとの思いも伝わってきた。ルーキーが決定的なシュートを相手GKに阻まれた瞬間、本人よりも悔しがっていたからだ。

 

「彼には合宿のトレーニングのとき、1対1で1回やられたんですよ。ただものじゃないな、と(笑)。今、三笘(薫)選手が海外で活躍していますけど、日本にもいるんだとそのワンプレーで感じました。そこから彼とトレーニングするようになったり、アドバイスするようになったり。彼は自信をどんどんつけてああやって躍動しているし、まだまだ伸びていくと感じています」

 

 若手を伸ばすことも、ひいては勝利のため、チームのために。この日は昌平高から加入した俵積田と同じく18歳の荒井悠汰が途中出場し、大卒ルーキーの寺山翼が初先発。U-20アジアカップに出場しているU-20日本代表には松木玖生、熊田直紀もいる。彼ら以外にも将来有望な若手のタレントがそろっており、若い才能を引き出していくことも自分の役割だと考えているようだ。

 

 取材エリアでこうも語っている。

「日本サッカー界のことを考えても、若い選手が躍動してくれることが日本代表の強化につながる。自分はワールドカップを4回経験させてもらってたくさん得てきたので、その経験を若い選手に与えるだけ与えて彼らの成長を促していきたい」

 

 ひいては日本のため、と言えるのかもしれない。ただ、一番は今シーズン、悲願のJ1初制覇を果たしてシャーレを掲げるためにほかならない。

 

 長友は2021年9月、チームに11年ぶりに帰還。その1カ月半後にインタビューした際、チームに勝利への執念を植え付けていこうと意気込む彼がいた。

 

「勝つために(チームに)雇われているわけで、そこはちゃんと理解しなきゃいけない。勝つために僕を選んでくれている。だからこそ勝つっていう熱量がないと、プロでやっている意味がないというか、それならアマチュアでいいじゃんってなる。もちろん勝ちたい気持ちだけで勝てるほど甘くないことだって理解しています。でも、そこがベースにないと勝利も成功もないと僕は思っています」

 

 勝つための熱量――。時間を掛けてチームに浸透させてきたからこそ、今季に懸ける思いは誰よりも強い。

 

 ピッチ内はもちろんのこと、ピッチ外でも盛り上げて勝利をひたむきに、貪欲に目指していく。その先にきっとシャーレが待っていると信じて――。


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