J2から昇格して6年ぶりにJ1の戦いに臨むアルビレックス新潟が面白い。

 

 開幕戦(2月18日)では昨季5位のセレッソ大阪に2―2で引き分け、第2節(26日)では同3位のサンフレッチェ広島に2-1で競り勝った。いずれもアウェー。昨季上位チームに対して1勝1分けという上々の滑り出しである。

 

 昨季、コーチから昇格した松橋力蔵監督のもとポジショニング、ボール保持にこだわったアルベル前監督のベースを引き継ぎつつも、縦に速い攻撃と徹頭徹尾のハードワークを加味させて攻守に圧倒するスタイルは、J1の舞台でも十分に通用することを証明した。

 

 最終ラインから好パスを連発するベテラン千葉和彦の存在感はさすがだが、チャンスを幾度も演出する伊藤涼太郎のトップ下がハマっている。GK小島亨介は足もとのテクニックに長けていて、攻撃サッカーに欠かせない存在になっている。戦力的には昨季とほぼ同じメンバーだが、補強に動かなかったのはこのメンバーでやれるという確信がクラブにあったからだろう。

 

 その数少ない新加入組の一人が、昨季J2FC町田ゼルビアで11ゴール7アシストをマークした太田修介だ。松橋監督はアンジェ・ポステコグルー体制の横浜F・マリノスでコーチを務め、2019年のリーグ制覇を経験している。ポステコグルー監督がサイドハーフまたはウイングにはスピードがあって守備強度の高い選手を好んだように、F・マリノスのアタッキングフットボールの香りもどこか漂うアルビレックスにマッチしないわけがなかった。

 

 太田はサンフレッチェ戦で初スタメン。前半14分だった。千葉、伊藤を経由してボールを受けた左サイドハーフの三戸舜介がカットイン。相手のスライディングを受けてこぼれたボールを、詰めていた太田が左足で豪快に叩き込んだ。プロ6年目にして記念すべきJ1初ゴールを挙げた。

 

 チームの2点目にも絡む。前半37分、1トップの鈴木孝司がハーフウェーライン付近から前方のスペースにパスを出し、受け取った伊藤がドリブル。右サイドを疾走する太田が伊藤からのロングパスを絶妙なトラップで受けて、左足アウトサイドで鈴木へラストパスを送った。スピードに乗ったままテクニックを発揮できる太田の持ち味が十分に発揮された場面だった。

 

 遅咲きのスピードスターに覚醒の雰囲気が漂う。

 

 山梨県出身の彼はヴァンフォーレ甲府の育成組織で育ち、日体大を経て2018年にヴァンフォーレに加入した。

 

 即戦力と期待されながら、ルーキーイヤーはリーグ戦わずか4試合の出場、ノーゴールに終わる。

 

 その年の確か夏ごろだったと記憶している。筆者は“マムシ”こと小椋祥平のインタビューのため練習を取材していたが、居残りで必死になってシュート練習をしていたのが太田だった。小椋も「居残りはアイツの日課。凄く頑張っているんですよ」と期待を口にしていた。

 

 みっちり汗を流した太田を思わず呼び止めて、少し話を聞いた。

「(シーズン序盤に)何試合か出してもらったんですけど、結果が出なかったからこういう(試合に出られない)状態は続いています。このままなら一生、出られないと思っています。つかみ取るためには練習あるのみだと思っています」

 

 ルーキーにしてこの危機感。いい目をしていた。

 練習はウソをつかない。3年目の2020年シーズンに31試合6得点の成績を残し、移籍したゼルビアで主力を担うようになる。

 

 打ち込んだシュート練習が身になっているから、きっちりと得点につなげることができる。“個人昇格”となったアルビレックスではチャンスメーカー、フィニッシャー両面の役割を担うことになる。

 

 ヴァンフォーレ出身でスピードスターと言えば、日本代表の伊東純也(スタッド・ランス)を頭に浮かべる人も多いに違いない。身長は同じ176㎝と、重なるところも少なくない。伊東のように、羽ばたくことができるか。隠れたブレイク候補に注目あれ――。


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