野球のWBCでは侍ジャパンが準決勝(メキシコ戦)・決勝(アメリカ戦)とドラマチックな展開で勝利し、見事世界一に輝きました。選手、監督、スタッフの方々が一丸となっており、とても感動しました。おめでとうございます! さてさて、サッカーも野球に続きたいところですね。

 

 森保一監督の続投が決まってから、初めて日本代表戦がありました。カタールワールドカップから約3カ月ぶりの試合はキリンチャレンジカップ2023のウルグアイ戦(3/24@東京・国立)とコロンビア戦(3/28@大阪・ヨドコウ桜)でした。長らく代表でレギュラーを務めてきたDF吉田麻也(シャルケ04)、DF長友佑都(FC東京)、DF酒井宏樹(浦和レッズ)らを招集せず、新たな選手を起用し、サイドバックを内側に入れてビルドアップに参加させる“偽サイドバック”をトライしたことは評価できます。

 

 結果的に“偽サイドバック”はうまくいかず、ウルグアイ戦の前半45分のみの試運転となりました。短い練習時間では、サイドバックがどのタイミングで内側に入るべきか、また立ち位置はどこに取るべきか……などの連係を構築するのは難しいはずです。しかし、試したことそのものは良かったと思います。カタールW杯後、監督、選手は「自分たちが主導権を握る必要性」や「ボール保持の時間を長くする必要」を感じたようです。パスコースを増やすための“偽サイドバック”が中盤の渋滞を起こしましたが、なぜうまくいかなかったのか、がはっきり分かったことは小さくない収穫だと思います。

 

 ポゼッション志向は良かったですが、球際が弱くなったりプレスの強度が落ちたことが若干、気になりました。まずはボールを奪取しないとポゼッションは始まらない。どこで奪うのか、いつサイドバックは絞るのか。この旗振り役は誰がやるのかを明確にする必要性を一番感じました。将来的に、偽サイドバックとオーソドックスを使い分けられればいいのではないでしょうか。

 

 第二次森保体制のファーストゴールはFW西村拓真(横浜Fマリノス)のスライディングシュートでした。後半29分にピッチに入り、そのままの勢いで1分足らずで得点を奪いました。彼は本来FWですから、点が奪えるトップ下は貴重ですね。基本的にゲームメーカー色の強い選手が多かったりしますから、彼の存在は日本代表の戦いの幅を広げてくれます。

 

 個人的にはコロンビア戦に途中出場を果たしたMF久保建英(レアル・ソシエダ)はトップ下で出場しました。僕にはリーダーシップを発揮しよう張り切っていました。トップ下がやはり一番良さそうです。長短のパスで散らせるし、ドリブルでつっかけられる、ミドルシュートもあります。招集できるときは、今後もトップ下で固定しても良いと思います。もっといえば、90分フルタイム、トップ下で久保を見たいです。以前までは使われる側でしたが、今後は使う側として本領発揮と行きたいところです。センターラインの軸として90分通して安定したパフォーマンスを披露できるかが、今後の久保の課題と期待したい点です。

 

 サイドバックで起用されたDF菅原由勢(AZ)、DFバングーナガンデ佳史扶(FC東京)らもパスの精度などは良かったように映りました。課題はこちらも周囲との連係です。センターバックともっとコミュニケーションを取り、良い距離間、ポジショニング、マークの受け渡し、ズレるタイミングといった精度を高めていってほしい。この2試合、サイドを破られるシーンがいくつかあったので、個人戦術での1対1のレベルアップも、期待を込めて付け加えさせてください。

 

 今回のキリンチャレンジカップは1分け1敗と数字だけ見れば寂しいですが、内容を見てみると決して悪くなかった。“良い親善試合の使い方をした”と評価して良いと僕は思いました。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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