Lフライ級2団体統一王者・寺地拳四朗、「気持ちの闘い」でTKO防衛 井上拓真はWBAバンタム級王者に! 那須川天心は白星デビュー  ~ボクシング世界戦~

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 8日、ボクシングのダブル世界戦が東京・有明アリーナで行われた。WBC&WBAスーパー世界ライトフライ級統一王座タイトルマッチは統一王者の寺地拳四朗(BMB)がアンソニー・オラスクアガ(アメリカ)に9ラウンド58秒TKO勝利。WBA世界バンタム級王座決定戦は、1位の井上拓真(大橋)が2位のリボリオ・ソリス(ベネズエラ)に判定勝ちし、初の正規王座を獲得した。またプロボクシングデビューとなった那須川天心(帝拳)は与那覇勇気(真正)を判定で下した。

 

 当初予定した3団体統一戦は、WBO王者ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)がマイコプラズマ肺炎に罹り、幻となった。代わりに現れた対戦相手は24歳の新鋭。サウスポー対策を講じていた寺地陣営にとって右のファイターにチェンジした防衛戦は決して与し易い闘いではなかったはずだ。寺地も「最初は不安があった」と試合後に明かした。

 

 ボクサーファイターの寺地は序盤は距離を取り、刺すようなジャブとストレートで相手を削る。中盤から終盤にかけて仕留めるのが得意パターンだが、初の世界戦に燃えるオラスクアガの勢い、ハートの強さには舌を巻いた。寺地が被弾する場面も見受けられた。

「ペースは悪くなかったが、相手の気持ちが強かった。あそこまでついてくるとは思わなかった」

 

 手数では圧倒していたものの、折れずに向かってくる相手に自身の心が折れそうにもなったという。それでも負けるわけにはいかない。「チームが支えてくれた。僕1人では厳しい闘いだった」と寺地。終盤に入り、セコンドの加藤健太トレーナーからは「心折れるな!」と檄が飛んだ。加藤トレーナーによれば「自分の中でも強気に打ち合うべきか、安全にポイントを取って引くべきか、押し引きの部分が難しかった。足を使うと、ポイントアウトの動きをすると弱気になる感じが見えた。気持ちで負けて飲み込まれるのが怖かったので『気持ちで負けるな』と言いました」

 

 試合後が動いたのは9ラウンド。寺地が挑戦者をロープ際に追い込むと猛ラッシュを仕掛けた。ガクッと腰を落としたオラスクアガ。2人の間にレフェリーが割って入り、10カウントを待たずして試合を止めた。「気持ちだけで闘った」と寺地。苦しい闘いだったことは、リング上で涙を流したことからも垣間見えた。タフな試合をモノにしたことで「これでまた強くなれる」と自信を付けたようだ。

 

 果たして寺地は、引き続き4団体統一を目指すのか、階級を上げて新たなベルト獲りを狙うのか。本人は「五分五分。いろいろな道を考えていきたい。どうなるかはまだわからない」と明言は避けた。

 

 昨年12月に4団体統一王者がベルトを返上したため、各団体の王者が空位となったバンタム級。まずWBAは、前4団体統一王者の井上尚弥(大橋)の弟・拓真が戴冠した。
 
 井上拓真は18年に暫定王座を獲得したが、翌年、正規王者のノルディーヌ・ウバーリ(フランス)との王座統一戦に敗れた。それでも2カ月後の再起戦に勝利すると、日本スーパーバンタム級のベルトを巻くなど、4連勝と着実に足場を固めていった。黒のベルトをかけた、この日の王座決定戦にこぎつけた。
 
 試合は井上拓真が優位に運ぶ。前に出てくる元WBA世界スーパーフライ級王者のソリスをさばきながら自らのパンチを当てていく。5ラウンドには相手の肘が左目上をかすめ出血した。視界が十分ではない中でも慌てない。12ラウンド36分を闘い抜き、3-0の判定で勝利した。
 
「兄が手放した4つのベルトを自分が集めるのが目標」。兄に続くバンタム級4団体統一を誓った。

 

 この日、2つの世界戦よりも高い注目を浴びていたかもしれないのが、タイトルマッチ前に行われた那須川のデビュー戦だ。興行パンフレットの“センター”を陣取り、試合前の記者会見も世界戦カードの選手たちと共に登壇した。

 

 キックボクシング時代から慣れ親しむ、ロック歌手・矢沢永吉の『止まらないHa~Ha』の曲に乗って入場した。エプロンサイドに立つと、リングに上がる直前、会場を見渡した。“これがボクシングの景色か”と言わんばかりに。

 

 デビュー戦の相手は日本バンタム級4位の与那覇。この試合はスーパーバンタム級で行われ、1階級下とはいえ日本ランカーにどれだけの闘いを見せられるのか。ボクシングファンのみならず格闘技ファン注目の一戦はゴングが鳴らされた。

 

 開始早々からリング上で舞った。スピーディーに、そしてトリッキーに。その動きに、この日詰め掛けた約1万2000人の観客がオーッと沸いた。「このタイミングならいける、大丈夫だなと思いながらできた。観客がいての格闘技。沸かせるマインドも持ってできた」と那須川。そもそもキックボクシングでも彼は“異端”だった。MMAに挑んだり、ボクシングルールでフロイド・メイウェザー・ジュニア(アメリカ)と闘ったりもした。

 

 スピードで圧倒し、6ラウンドを闘い抜き、3-0の判定勝ちを収めた。2人のジャッジが那須川にフルマークを付ける完勝。「ホッとした」と那須川。傷ひとつない顔で「顔が命なんで」と笑顔を見せた。それでも倒し切れなかったことについては、「これから」と課題とした。実際にパンチを受けた与那覇は「キレで倒す感じで、いいタイミングでもらったら危ないところもありました」と試合後に所感を述べた。

 

 2ラウンドに奪ったダウンについて、那須川は「あれはダメージがあったかといえばそうじゃないと思う」と改心の一撃ではなかったという。一方で「“そういうのもダウンになるんだな”と。自分でもびっくりした。逆に“これがダウンになるなら俺も気をつけないと”と思いました」と振り返った。ボクシングを本格的に始めて半年。今はアジャストしている最中だ。


 ボクシングとキックボクシングの違いのひとつに距離感が挙げられる。キックなら届く距離でもボクシングならば安全圏。逆にキックでは飛び込めない距離もボクシングではステップインして潜り込むことができる。この日の闘いはその距離感を実戦で試す、感じようとする作業にも見てとれた。

 

 那須川が「格闘技人生の第2章」と位置付ける闘いは、スタートしたばかり。「早くボクシングがしたい」。今後の可能性を大いに感じさせるデビュー戦だった。

 

(文・写真/杉浦泰介)

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