17日、女子バスケットボールの第24回Wリーグ・プレーオフファイナル第3戦が東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで行われ、ENEOSサンフラワーズがトヨタ自動車アンテロープスをダブルオーバータイムの末、72-64で破った。ENEOSはWリーグ4年ぶり17度目、前身の日本リーグを合わせると23度目の優勝。トヨタ自動車は3連覇を逃した。プレーオフのMVPには3試合連続ダブルダブルを記録した渡嘉敷来夢(ENEOS)が輝いた。プレーオフのベストファイブには渡嘉敷、長岡萌映子、宮崎早織のENEOS勢と馬瓜ステファニー、山本麻衣のトヨタ自動車勢が選ばれた。

 

◇ファイナル第3戦(ENEOS2勝1敗)

 渡嘉敷、20得点13リバウンド2ブロック(武蔵野の森総合スポーツプラザ)

ENEOSサンフラワーズ 72-64 トヨタ自動車アンテロープス

【第1Q】10-10【第2Q】21-18【第3Q】11-14【第4Q】11-11【OT1】8-8【OT2】11-3

 

 タフなファイトを制したのは、勝利への執念か。ENEOSが4年ぶりリーグ女王に返り咲いた。

 

 1勝1敗で迎えた第3戦。川井麻衣を中心に序盤から激しいプレスを仕掛けたトヨタ自動車がENEOSにボールを自由にコントロールさせない。馬瓜がドライブからレイアップで先制。渡嘉敷に厳しいマークを仕掛けパスミスを誘うと、馬瓜がジャンプショットで連続得点を挙げた。

 

 ENEOSは宮崎のパスから長岡がスリーポイントを沈めるが追いかける展開となった。流れを取り戻したのはアグレッシブなディフェンスだった。速攻を仕掛けた宮崎が一度はボールを失いかけるが、渡嘉敷がカバー。再びボールを持った宮崎がアウトサイドで待つ林咲希にパスを送る。背番号7のシューターは冷静にスリーを決める。第1Qは10-10のロースコアで終えた。

 

 続く第2Qは、長岡-渡嘉敷のホットラインでENEOSがスコアを動かす。対するトヨタ自動車も馬瓜のスリー、シラ・ソハナ・ファトー・ジャのジャンプショット、馬瓜のレイアップ、さらに馬瓜がジャンプショットで7点差に突き放した。

 

 ENEOSは食らいつく。藤本愛瑚がインサイドでシラのファウルを誘い、バスケットカウントの3点プレー。シラは3個目のパーソナルファウルとなり、トヨタ自動車は試合時間半分以上を残してコートに置く時間を制限されることとなった。藤本は中盤にも速攻から得点を奪い、追い上げに貢献した。

 

 ベンチメンバーの活躍で流れを掴んだENEOSは、宮崎のパスから渡嘉敷が決めて22-22と追いつく。再び離された後、宮崎がスリーを決めて25-24と逆転し、この試合初めてリードを奪った。このQ終盤は渡嘉敷がインサイドで存在感を発揮し、31-28と3点リードでハーフタイムを迎える。

 

 第3Qも一進一退の攻防は続く。トヨタ自動車・山本のスリーで31-31。宮崎の連続得点でENEOSが突き放すも、馬瓜が返して追いついた。高田静がシュートでENEOSが42-39としたものの、トヨタ自動車も宮下希保のスリーで離されない。

 

 第4Qは2点ずつ取り合う展開から抜け出したのはトヨタ自動車だった。山本のスリーで逆転すると、山本のパスからシラが決めて53-50とした。それでもENEOSは粘りを見せる。残り1分1秒、渡嘉敷にトヨタ自動車がダブルチームできたことにより空いた外角の高田のスリーで同点。残り2秒で山本が仕掛けたが長岡のブロックで勝ち越しを許さなかった。

 

 53-53の同点で5分間のオーバータイム。トヨタ自動車はシラが5個目のパーソナルファウルで退場となったが、61-61で譲らない。ダブルオーバータイムへ突入した。「長引けば長引くほどウチが有利だと思っていた」と渡嘉敷。トヨタ自動車は梅沢カディシャ樹奈も5個目のファウルで退場となり、大神雄子HCは「2人が渡嘉敷選手とファイトした証拠」と責めなかったが、インサイドの選手を2人失う苦しい展開となった。

 

 残り2分を切ったところで林が、宮崎から「いつも通りのパス」を受け、この日2本目のスリーを決めた。宮崎は速攻から鋭いドライブでバスケットカウントの3点プレー。トヨタ自動車を突き放す。最後は山本のスリーを渡嘉敷がブロックし、速攻で高田が決めて勝負あり。72-64でENEOSが皇后杯との2冠を達成した。

 

 ダブルオーバータイムまで、もつれた激闘を、ENEOS佐久本智HCは「本当にガマン、ガマンで、それを選手たちはよく耐えた。自分たちのプレーを信じ、仲間を信じて徹底した結果だと思っています。目標としていた2冠を達成することができたので、ホッとしています」と振り返った。

 

 一方のトヨタ自動車大神HCは、試合後の記者会見で枯れた声を絞り出した。
「みんなが全力を尽くしたベストゲームだったんじゃないかなと思います。戦術どうこうではなく、もう言葉では表せない試合。改めてバスケットボールの楽しさを選手が表現してくれた50分間でした。“もっと観たい”と思った方がいらっしゃるかもしれませんが、選手たちはよく戦ったと思います」

 

 勝敗を分けたのは何だったのか。キャプテンの渡嘉敷は「最後の最後まで自分たちを信じたことが一番強かったんじゃないかなと思っています」と語り、こう続けた。
「相手にスリーポイントをやられても、誰ひとり顔を下げることなく、コートに出ている選手もそうですし、ベンチメンバーも、そしてファンの方も、本当に“ENEOSならやってくれる”と。“自分たちだったらできる”という強い気持ち、ただしそれだけだと思います。延長になった段階で、あとは気持ちだけです」

 

 司令塔としてチームを牽引し、17得点12アシストのダブルダブルを記録した宮崎は言う。

「スタートだけではなくて、今日はベンチメンバーが本当に頑張ってくれたと思います。出られなかった選手もいたんですけど、ENEOSの強いところはスタートだけではなくて、途中から出る選手たちが流れを持ってきてくれるというのが、もう一つの強みだと思っています。本当にベンチメンバーには感謝しています」

 この日ベンチメンバーだった高田、藤本は要所要所での活躍が光り、チームに流れを引き寄せた。

 

 リーグ連覇を続けていた頃のENEOSは、個の力が高いのはもちろんこと、ボールへの執着心がすさまじかった。走り負けないバスケットの根幹には、タフなディフェンスでリズムを掴んでいた。2戦目と3戦目のENEOSもまた然り。ガード陣は粘り強くトヨタ自動車のキープレーヤーである山本と川井にプレッシャーを与え続けた。山本と川井はいずれも2ケタ得点を挙げたが、勝負どころで決め切れなかったのは、心身ともに削られていたからではないか。

 

 ただ、この勝利を持ってENEOSの黄金時代が再び訪れると言うのは早計だ。渡嘉敷も「そんな簡単じゃない」と言い切る。準優勝のトヨタ自動車、レギュラーシーズン1位のデンソーアイリスなどが女王の座を虎視眈々と狙っているはずだ。黄金時代の到来よりも群雄割拠の戦国時代に突入を予感させる。もちろんその中心には、この日、激闘を繰り広げた両チームがいるのだろう。

 

(文/杉浦泰介、写真/©Wリーグ)