WBCで3大会ぶり3回目の優勝を果たした侍ジャパン。短期間でチームを束ねた栗山英樹監督の株価が急騰している。

 

 

<この原稿は2023年4月17日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

 

 毎年、生命保険会社がアンケート調査を実施し、発表する恒例の「理想の上司」でトップに躍り出ることは間違いない。

 

 余計なお世話かもしれないが、どうせなら上司を対象に「理想の部下」のアンケートもとってもらいたい。こちらは大谷翔平で決まりか。

 

 WBCでの栗山采配のハイライトは、準決勝メキシコ戦の9回か。スコアは4対5。3番・大谷翔平が右中間に二塁打、「カモン!」と大声を発して日本ベンチを鼓舞する。4番の吉田正尚が四球でつなぎ、無死一、二塁。一塁に歩く際、吉田はネクストバッターズサークルの村上宗隆を指さし、「オマエが決めろ!」というポーズをつくった。

 

 WBCで快音の消えていた村上は、この日も不振で、この打席まで空振り三振、見逃し三振、空振り三振、三邪飛と4打席ノーヒット。定石なら犠牲バントである。村上に代打を送り、その打者にバントをさせるという手もあった。おそらく栗山の手の中にも、いくつかの選択肢があったはずだ。

 

 栗山の指示は強行策。「思い切っていってこい!」。栗山の言葉を村上に伝えに行ったコーチの城石憲之が帰国後、舞台裏を明かした。「最初、ムネの顔を見たら“何しにきたんだ”みたいな顔をされて。“バントか? 代打か?”と。それで監督の言葉を伝えたら、ムネにスイッチが入った。あの表情は一生忘れない」

 

 栗山が知将・三原脩の没後弟子であることは、よく知られている。栗山によると、三原の娘婿である中西太は監督になってバントを多用した。それを見た三原は「コイツにはプロ野球の監督はできん」と語ったという。「目先の試合に勝つことは大事だが、それ以上にプロ野球にとって大切なものは何か。それはお客さんを喜ばせること。三原さんにはそういう大局観がありました」

 

 泉下で三原も、栗山ジャパンの世界一を喜んでいるはずだ。

 


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