伝統の一戦は何が起きるかわからない。

 

 

<この原稿は2023年5月8、15日合併号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 

 さる4月12日、東京ドームでの巨人戦、阪神・岡田彰布監督は7回までパーフェクト・ピッチングを続けていた先発の村上頌樹を、この回で見限った。

 

 代わったばかりの石井大智が8回裏、岡本和真にソロホームランを浴び、1対1の同点に。延長10回表、近本光司のタイムリーが飛び出し、2対1で競り勝ったものの、複雑な思いで球場を後にしたファンも少なくなかったに違いない。

 

 試合後の岡田のコメント。

「佐々木朗希やったら、投げさせとったけどな。1対0でもな。村上じゃ3対0じゃないと投げさせられない」

 

 村上は奈良・智辯学園高から東洋大を経て2021年にドラフト5位で入団した24歳。ウエスタン・リーグでは21年に最多勝、最優秀防御率、最高勝率、22年には最優秀防御率、最高勝率に輝くなど実績を残しているが、1軍では未勝利。岡田が「(交代は)6回も考えた」と言ったのも、むべなるかなだ。

 

 それでなくても、岡田は継投に自信を持っている。05年のリーグ優勝は、ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之の、いわゆる“JFK”のフル回転によってもたらされた。

 

 岡田にすれば、村上が7回まで持ってくれれば御の字。リードしたままクローザーの湯浅京己につなぎたかったはずだ。

 

 他方で、完全試合は滅多に見られるものではない。「若い投手に一生に1回あるかないかのチャンスを与えてもよかったのではないか」との声も。

 

 また07年の日本シリーズ第5戦での中日・落合博満監督の“非情采配”(パーフェクト・ピッチングの山井大介を8回で降ろし、9回から岩瀬仁紀に交代。1対0で完全試合達成・参考記録)を引き合いに出す者もいたが、まだシーズンは始まったばかり。それとは似て非なるケースと言えよう。

 

「頭の中はずうっとね、完全試合いけたんかなぁ、と。それは残っていますね」と岡田。監督とは悩み多き仕事である。

 


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