「NTTジャパンラグビー リーグワン2022-2023」ディビジョン1はリーグ戦最終節を迎える。既にプレーオフ進出を決めている2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(スピアーズ)は22日、同3位の東京サントリーサンゴリアス(サンゴリアス)とホストスタジアムの東京・スピアーズえどりくフィールド(江戸川区陸上競技場)で対戦する。

 

 プレーオフは東京・秩父宮ラグビー場、国立競技場で開催されるため、今季ラストの“えどりく”でのゲームだ。開幕節で勝利したサンゴリアスとは準決勝または決勝で対戦する可能性もある。いわばプレーオフ前哨戦の様相を呈するのだが、フラン・ルディケHCはこれまでと変わらぬ姿勢を崩さない。

「まずは1レースごとに集中したい。セミファイナルは先のこと。目先の試合をどれだけ戦えるのか。ベーシックなところをきっちりやり、規律を守れば自分たちのしたいラグビーができる」

 

 ゲームプランとしては、奇をてらうことはなく、いつも通りを貫くだろうが、ファン目線に立てば少し捉えた方は異なる。それはホスト最終節ということだけではなく、今季限りでチームを去る者もいるからだ。今月19日には、SH井上大介、CTBライアン・クロッティ、HO大塚健太郎、CTB中田翔太、WTB岩佐賢人、FL積賢佑と、アランド・ソアカイACの退団が発表された。井上はキャプテンのCTB立川理道と小学生時から一緒にプレーしてきた同期で在籍11シーズン。ソアカイコーチに至っては現役時代と合わせれば12年戦士である。

 

 ファンを感傷的にさせているとすれば、元ニュージーランド代表(オールブラックス)のクロッティの退団も理由だろう。2019年W杯日本大会に出場し、直後の19-20シーズンからチームに加入。クロッティは「今はスペシャルな感情です。みんなと一緒にいられる残りの時間をエンジョイしたい」と語った。スピアーズに「いい文化」を醸成するためにニュージーランドからやって来た男は、3季連続プレーオフ進出を決めたチームの成長の一役を担った。

「何かひとつとは言えないが、小さいことを変えてきた。チーム全体でフィードバックを求めたり、お互いにどう学びたいかを共有できた。いろいろな国の人間がいる中で、どれだけ互いにケアしながら、チームを良くするためにアイデアを出し合ってきた。選手、コーチ、スタッフみんなが学ぶ意欲があったことが成長に繋がった」

 

 スピアーズでの4年間を振り返り、「全員が一生懸命。そういうチームに関われたことが、ギフトをもらえたと感じる。自分の経験を伝えられたことを誇りに思う」と胸を張った。「ギフト」を受け取ったのは、彼のプレーに熱狂するファンも、躍進を遂げているチームもまた然りだろう。

 

 ではクロッティがスピアーズにもたらしたものとは――。指揮官にそれを訊ねると「答えはたくさんあるので、簡単には言えない」と断った上で、こう続けた。
「彼はスペシャルな選手で、スペシャルな人間。ディフェンスシステムを変え、アタックシェイプやチーム文化づくりのサポートをしてくれた。本当にオールラウンドにいろいろやってくれた。面白いキャラクターで、日本人選手たちとも仲が良い。いろいろなことを共有し、相談に乗ってくれる。経験豊富でそれに対する答えも持っている」

 

 誤解を恐れずに言えば、クロッティはスーパーマンではない。疾風の如くディフェンスラインを切り裂くスピードも、相手をぶち破るような圧倒的なパワーもない。マジシャンのようなハンドリング、正確無比のキックスキルを持つわけでもない。気が利くプレーヤー――。それが彼に抱く印象だ。それでいてオールブラックス48キャップを刻むことができたのは、彼のバランサーとしての才がずば抜けている証拠とも言える。

 

 その点はルディケHCも「彼のような経験のある選手がいるからこそ若手とコミュニケーションを取って、落ち着きを与えてくれる。オンフィールド、オフフィールド問わず、その影響力は大きい」と高く評価している。彼のような繋ぎ役のベテランがいることで、若手も羽を伸ばすことができるのだ。ピッチ上では職人の雰囲気を漂わせるが、ひとたび“戦場”から離れれば笑顔が絶えない陽気な兄貴分である。

 

 サンゴリアス戦でスタメンが予定されるクロッティは、左ふくらはぎを痛めていた影響もあって、第6節(1月29日)のリコーブラックラムズ東京(BR東京)戦以来、約3カ月ぶりの実戦復帰だ。「ロイヤルティ(忠誠心)のある“オレンジアーミー”(スピアーズの選手、スタッフ、ファンの総称)たちの前でプレーできるのが待ち切れない」。ファンは彼に声援を送り、彼はプレーで応える。そして歓喜のプレゼントを贈り届けるのが、選手たちの役目と言えよう。

 

 4月22日は多くの“オレンジアーミー”にとって、ただのリーグ戦最終節でも、ただのプレーオフ前哨戦でもない。4シーズン共に戦ってきた“戦友”の雄姿を目に焼き付ける特別なひとときとなるだろう。

 

(文/杉浦泰介、写真/©クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)