「NTTジャパンラグビー リーグワン2022-2023」ディビジョン1第16節が21日に東京・秩父宮ラグビー場で行われ、埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)が東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)を34-22で下した。この結果により、埼玉WKのリーグ戦1位、BL東京の同5位が確定。プレーオフには埼玉WK、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S船橋・東京ベイ)、東京サントリーサンゴリアス(東京SG)、横浜キヤノンイーグルス(横浜E)が進出する。13日の準決勝第1試合が埼玉WK対横浜E、14日の準決勝第2試合がS船橋・東京ベイ対東京SGというカードとなった。

 

 前節、実戦ではリーグワン初黒星を喫した埼玉WKが、プレーオフ進出に燃えるBL東京を退けた。

 
 埼玉WKは勝てば1位通過が決まる。静岡ブルーレヴズ(静岡BR)に敗れ、リーグ戦(プレーオフを含む)では不戦敗を除く2018年12月以来の黒星だった。“トップ通過”という勲章を得るためだけでなく、プレーオフに向けてリーグ戦連敗で終えることは是が非でも避けたい。
 
 一方のBL東京は4位・横浜Eとの勝ち点差1点。2日後に試合を控えるライバルに勝ってプレッシャーを掛けたいところだ。試合は強度が高いハイテンポな攻防が繰り広げられた。前半29分まで、どちらも得点こそできなかったが、緊張感のある好ゲームで、この日詰め掛けた9566人の観客を沸かせた。
 
 主に敵陣でプレーしていたのは埼玉WK。29分、ついに均衡を破った。FWが身体を当ててインゴールに迫る。最後はSH内田啓介のパスを受けたPR平野翔平がインゴール右に飛び込んだ。「前が空いていたので内田さんを呼びました」。平野は今季初トライ。山沢のコンバージョンキックが決まり、埼玉WKが7点を先制した。
 
 畳み掛ける埼玉WK。圧力に押されてか、BL東京はペナルティーを連発。35分にはLO梶川喬介が反則の繰り返しにより、シンビンを科された。数的有利となった埼玉WKはこのチャンスを見逃さない。38分、WTBマリカ・コロインベテがSO山沢拓也の飛ばしパスをキャッチし、落ち着いてボールをインゴール左隅に置いた。終了間際には「ワイルドナイツらしいカウンターアタック」(HO坂手淳史)。自陣でボールを繋ぎ、CTB長田智希がゲイン。最後は内田がゴールポスト右脇に滑り込んだ。前半は埼玉WKが19-0で終えた。
 
 後半、先にスコアしたのがBL東京だ。2分、FB松永拓朗がPGを決めて3点を返した。19分にはWTBジョネ・ナイカブラがトライを挙げ、8-19と11点差に詰めた。PGと1トライでリードを広げられても、29分にはHO橋本大吾がトライ、松永がコンバージョンキックを決めて15-27に。この試合、勝ち点をひとつも奪えなければ、プレーオフ進出の可能性は消える。まずはボーナスポイントが得られる7点差以内に持っていかなければならない。
 
 埼玉WKは隙を見せない。34分、センターライン付近でテンポよくボールを回すBL東京に対し、ディフェンスラインを敷く。コロインベテがSOマット・テイラーにタックルを浴びせる。テイラーがオフロードパスを狙うが、それを長田がインターセプト。そのまま1人独走し、インゴール中央までボールを運んだ。途中出場のSO松田力也がコンバージョンキックを決め、34-15と勝利をほぼ決定付けた。
 
 一方のBL東京は、直後のキックオフボールを再獲得し、FL徳永祥尭のトライに繋げた。松永がコンバージョンキックを決め、22-34。その後も敵陣に迫ったものの、途中出場のHO堀江翔太にブレイクダウンでプレッシャーを受け、ペナルティーを犯してしまう。ラストチャンスでもパスが繋がらず、このまま試合は終わり、埼玉WKの1位、BL東京の5位が確定した。
 
 埼玉WKのロビー・ディーンズ監督は「いいリーグ戦の締めくくりだった。選手たちを誇りに思う」と試合後の記者会見で語った。「どう立て直すかがポイントだと思っていた。相手のモチベーションが高く難しいゲームだったが、選手たちは自分で立て直すことができた」。キャプテンの坂手も「準備を100%遂行できた。プレーオフに向けたいい準備ができ、すごく自信のつくゲームだった」と試合を総括した。
 
 先週の敗戦から、見事に立て直してみせた。坂手は「負けたことはネガティブに捉えがちですが、どういったことに原因があるか、どう修正するかにフォーカスを置いた」と、この1週間を振り返る。「負けた次の試合が、むちゃくちゃ重要。そこで連敗してしまうと、“もしかしたら立ち直れないかもしれない”と僕の中で危機感があった。チーム全員がこの試合に懸ける思いが強かった」とはプレーヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)を獲得した長田の談だ。

 今季は第15節終了時点で1試合平均は11.1個と例年に比べ反則数が目立っていた。敗れた静岡BR戦も11個だった。「不用意なペナルティーが増えていた。自分たちの強みが薄れていると感じました。今日の試合はディシプリン(規律)がひとつのテーマでした」と内田。この日は前半わずか1個。試合を通しても7個と規律を保っていた。

 同一シーズンにおけるリーグ戦の連敗はトップリーグ05-06シーズンの12月以来ない。負けないチームであり、負け続けないチームでもある。14-15シーズンに入団した内田はこう語る。
「強みは修正能力、適応能力。ゲームの中でもそうですし、(試合に向けた)1週間かけての準備でも。やらなければいけないところをしっかり絞ってフォーカスできているのが修正力に繋がっていると思います」
 
 敗れたBL東京は、これで今季のリーグワンが終わった。昨季より順位はひとつ下がったものの、これをもって衰退したと断ずることはできない。「間違いなく成長している」とNo.8リーチ・マイケル。トッド・ブラックアダーHCも手応えを口にした。
「タックルの数値はリーグ1位と言っても過言ではありません。ラグビーの質もかなり良くなっている。選手層も厚くなってきている。まだまだ成長できる」
 
 また観客動員も伸びている。4月17日の記者会見での荒岡義和社長によれば、有料チケットの割合は「昨季の1.5倍。85%前後」だという。最終節の観客数は9566人。1試合平均は5933人と、昨季より約1.4倍に増えている。星野明宏プロデューサーも「興行を意識できた1年だった。新しいことにもチャレンジできました」と振り返った。今季はチームスピリット、チームソングをつくるブランディング。会場演出にもこだわった。
 
 星野プロデューサーは、来季への課題としてライト層のファン獲得を挙げる。オフにイベントなどを開催予定だ。この秋にはW杯フランス大会も控えており、そこで期待されるラグビー熱の高まりを利用しない手はない。また翌シーズンはSOリッチー・モウンガ、FL シャノン・フリゼルという現役ニュージーランド代表のビッグネームの加入が決まっている。「ラグビー界全体に盛り上がって欲しい。自分は守りに入らず、いきたいです」と星野プロデューサー。来季に向けての戦いは既に始まっている。
 
(文・写真/杉浦泰介)