「NTTジャパンラグビー リーグワン2022-2023」ディビジョン1第16節が22日、各地で行われた。東京・スピアーズえどりくフィールド(江戸川区陸上競技場)では、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S船橋・東京ベイ)が東京サントリーサンゴリアス(東京SG)を39-24で破った。両チームは5月14日のプレーオフ準決勝(東京・秩父宮ラグビー場)でも対戦する。

 

 前日の試合で首位の埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)が勝ったため、実質消化試合となったのだが、それを感じさせない濃い内容のゲームを両チームは披露した。
 
 3週間後のプレーオフ準決勝でも戦う両チームの一戦、今季S船橋・東京ベイのホストゲーム最終戦に“えどりく”最多5651人の観客が詰めかけた。それぞれのチームカラーのオレンジと黄色がスタンドを彩った。
 
 この1カ月は雨の試合続きだったものの、プレーオフ前哨戦に水を差す天気とはならなかった。テンポ良いパス回し、ランで前進を狙う。もちろん肉弾戦も厭わない。前半4分に東京SGがスクラムで相手のペナルティーを誘えば、15分にはS船橋・東京ベイがスクラムで相手のペナルティーを誘った。
 
 先制はS船橋・東京ベイ。16分にSOバーナード・フォーリーがPG決めた。幸先良いスタートを切ったが、22分にWTB根塚洸雅(HIAチェックによる一時交替。28分に交代)、24分にはLOデーヴィッド・ブルブリンクが接触プレーによりピッチから去った。
 
 それでも追加点を奪ったのはS船橋・東京ベイだった。 26分、フォーリーのパスを受けたLOヘルウヴェがスルリと中央を抜け出してトライ。フォーリーのコンバージョンキックも決まり、10-0とリードを広げた。34分、東京SGにWTB尾﨑泰雅のトライで5点を返されたが10-5で前半を終えた。
 
 後半開始早々には、フォーリーとWTB木田晴斗のホットラインでトライを奪った。自陣からのスクラムからフォーリーが抜け出し、大きくゲインする。SO田村煕のタックルを受けると外を走る木田にパス。木田はFB松島幸太朗のプレスを受けながらもボールをインゴール左隅に運んだ。今季16トライ目、トップのWTB尾﨑晟也(東京SG)に2トライ差に迫った。
 
 ところが16分、東京SGに攻め込まれ、SH齋藤直人にトライを奪われた。さらにそれまでの流れで反則を犯していたFBゲラード・ファンデンヒーファーにレフェリーからイエローカードが提示された。田村にコンバージョンキックを決められ、3点差まで迫られた上に数的不利を余儀なくされた。18分には、SH谷口和洋が尾﨑泰雅に決定機を阻止するノーボールタックル。谷口にイエローカード、東京SGにはペナルティートライとなり、15-19と逆転を許した。
 
 13人対15人の絶対絶命のピンチ。21分にHO中村駿太のトライで東京SGに15-24とリードを広げられた。“えどりく”の連勝記録はついに止まるのか、と思われたが、次にスコアを動かしたのはS船橋・東京ベイだった。25分、右サイドで木田からパスを受けたCTBテアウパシオネが突破。一度はタックルで止められたが、再度前進し、インゴール右に右手を伸ばした。フォーリーがコンバージョンキックを決め、22-24に。
 
 このトライがS船橋・東京ベイにエナジーを、東京SGにダメージを与えたのは言うまでもない。26分にファンデンヒーファー、28分には谷口がピッチに戻ると、インゴールに迫る。32分の田村にイエローカードで、今度はS船橋・東京ベイが数的有利の状況に。34分にラインアウトからのボールをキャッチしたルアン・ボタが雪崩れ込むように手を伸ばして27-24と再逆転に成功した。
 
 38分にファンデンヒーファーがインターセプトから80m以上を独走するトライ。終了間際にもFL末永健雄のトライとフォーリーのゴールで39-24。終わってみれば6トライを挙げ、3トライ差以上のボーナスポイントを獲得する快勝を収め、“えどりく”の連勝記録は17に伸びた。
 
 今季14勝1分け1敗、勝ち点65のリーグ2位。昨季12勝4敗、勝ち点58のリーグ3位から、勝ち数、勝ち点、順位を上回った。埼玉WKには敗れたものの、負けない勝負強さが身に付いたように思う。第2節の横浜キヤノンイーグルス戦は土壇場で追い付き、第6節のリコーブラックラムズ東京戦はなんとか逃げ切った。この日の13人で9点ビハインドとなった時点では、負け試合の流れと言ってもおかしくはない。
 
 フラン・ルディケHCもこう振り返る。
「13人になった局面で、ハル(キャプテンの立川理道)をはじめ、リーダーたちがしっかりと落ち着いてブルーヘッドな状態(感情的にならず冷静に判断できる状態)に持っていってくれたこと、また13人になってもトライを取れたというところが大きかった」
 
 キャプテンの立川も続く。
「2人いない間は、苦しい時間帯となり、相手のペースになりかけた部分もあったのですが、13人でスコアができたというのはすごく大きいです。みんながひとつになって、何をすべきかわかっていた。バーナード(・フォーリー)がSHをやってくれたり、FWがハードワークしてくれたり、そうした中でうまくリードできたところはこれから先のプレーオフに向けてもいい収穫になったと思います」
 
 言うならば“同じ画を見れていた”ということか。「いいコミュニケーションをとってアジャストすることができました」とはフォーリー。13人時のトライはテアウパの推進力に依るものだが、そこに至るまでのアタックは愚直に縦に身体を当てていった。末永が「それぞれが役割を果たし、シンプルにやったことがトライに繋がったと思います」と語っていたように数的不利がプレー選択を明確にしたという側面もあるだろう。プレーオフ前哨戦は、昨季からの上積みを見せたS船橋・東京ベイが制した。
 
 この日の観客数5651人は“えどりく”最多を記録した。今季8試合のホストゲームは平均3743人を集めた。チームの成績からすれば少し寂しい数字だが、昨季3154人(7試合)と比べれば約2割増である。現場レベルでも変化を実感。広報の岩爪航氏は「江戸川区との連携が昨年より強化されたと思います」と語り、こう続ける。「パートナー企業さんともそうですが、就労支援施設や学校関係との結び付きが強くなりました。江戸川区外の人も、もっと“えどりく”に来ていただけるようになった。江戸川区の方々と“オレンジアーミー”(スピアーズの選手、スタッフ、ファンの総称)を密接な関係にし、“オレンジアーミー”が江戸川区を好きになり、江戸川区の方々がスピアーズを好きになる。スピアーズが目指している、他が相互的に連携し合う存在に近付けてきているのかなと感じます」。結束力を強め、快進撃を続けるS船橋・東京ベイ。フィールド外でも、エンゲージメントを高めていくつもりだ。
 
(文・写真/杉浦泰介)