「魔裟斗選手、(那須川)天心選手のことは尊敬しているが、彼らは日本国内のチャンピオン。日本の(トップクラスの)プロ野球選手と同じだ。対して我々(ONE Championship)と契約を交わした武尊選手は違う。日本を飛び出してメジャーリーグの大舞台で努力を続け輝く大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)のように世界に羽ばたこうとしている。彼は勇敢にも『格闘技界の大谷翔平』になるために、大きな一歩を踏み出す。これは日本の格闘技界にとって最大の出来事だ」

 

「ロッタン(・ジットムアンノン)選手と天心選手が日本で試合をしたことは、皆さん御存知でしょう。結果として天心選手が判定で勝ったことになっている。でも、実際に『天心選手が勝った』と思っている人がどれだけいるのか? あの試合の勝者は明らかにロッタン。ジャッジが日本の選手に甘すぎた。絶対、絶対、ロッタンが天心に勝った。『ONE』では、絶対にあんなことは起こらない」

 

『ONE』のチャトリ・シットヨートンCEOの発言は会見の中で、もっともインパクトの強いものだった。

 5月9日、東京・南青山で開かれた『武尊、ONEと契約正式発表』記者会見。同席したチャトリ氏の口調は熱かった。終始、冷静だった武尊とは対照的に。

 

 なぜ、チャトリ氏は熱弁を振るったのか? なぜ、約5年前の那須川vs.ロッタンの話を敢えて持ち出したのか?

 判定をどう評するかはともかく、那須川vs.ロッタンにチャトリ氏が触れたのには理由がある。それは近い将来、ロッタンvs.武尊が実現するからだ。この2人は過去に那須川天心と対戦し、ともに敗れている。つまりは、このビッグカードも「那須川に敗れた者同士の闘い」と見られてしまう。だからチャトリ氏は、ONE世界フライ級ムエタイ王者であるロッタンの強さを敢えて強調した。

 あの試合の真の勝者がロッタンであると位置づければ、ビッグカードの意味合いが違ってくる。武尊がロッタンに挑むタイトルマッチが、この階級での世界一を争う闘いだとアピールしたかったのだろう。

 

「K-1を代表するつもり」

 

 武尊は、年内にも『ONE』の舞台に上がることになる。ロッタンとの闘いが最注目だが、同じ階級には強豪がほかにもいる。

ONE世界フライ級キックボクシング王者スーパーレック・キアトモー9(タイ)、同ランキング2位のパンパヤック・ジットムアンノン(タイ)。おそらくは、彼らとも苛烈な闘いを繰り広げることになる。

 

 だがその前に、武尊にはパリでの再起戦がある。ベイリー・サグデン(英国)とのISKA世界ライト級王座決定戦だ。ONEに華麗に乗り込むためにも、サグデンに負けるわけにはいかない。それほどパワーはない相手だが、22勝5敗1分の戦績を誇る試合巧者で油断は禁物。今後を見据えれば、武尊にはインパクトのある勝ち方が求められよう。

「K-1を代表するつもりで世界に挑む!」

 会見で、そう宣言した武尊の『闘い第2章』を熱く見守りたい。

 

 ちなみに武尊が再起戦に挑む6月24日には、格闘技のビッグイベントが重なった。

 北海道・真駒内セキスイハイムアイスアリーナでは『RIZIN.43』が開かれ、クレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)が保持するフェザー級王座に鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)が挑む。また東京・大田区総合体育館ではボクシングWBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ、王者ジョシュア・フランコ(米国)vs.井岡一翔(志成)も行われる。

 すべて地上波テレビ中継はないが、ABEMAほかで生配信される。

 6月24日は、格闘技を存分に堪能しよう。

 

 

<直近の注目格闘技イベント>

▶5月13日(土)、アクロス福岡/「Krush-EX 2023 vol.4 in FUKUOKA」銀次vs.直也ほか

▶5月14日(日)、東京・大田区総合体育館/「第1回 KICK BOXING WORLD CUP」吉成名高vs. ペットナコン・ソーペッタワンほか

▶5月20日(土)、東京・後楽園ホール/「Krush.149」フライ級王座決定トーナメント決勝ほか

▶5月21日(日)、東京・GENスポーツパレス/「Fighting NEXUS vol.31」渡部修斗vs.アオキング一輝ほか

▶5月21日(日)、東京・竹芝ニューピアホール/「COLORS Produce by SHOOTO」&「PROFESSIONAL SHOOTO 2023 Vol.3」女子世界スーパーアトム級チャンピオンシップ、SARAMIvs.渡辺彩華ほか

▶5月28日(日)、アクロス福岡/「プロ修斗 TORAO 29」結城大樹vs.TOMAほか

▶5月28日(日)、東京・後楽園ホール/「RISE 168」QUEENフライ級タイトルマッチ、小林愛三vs.テッサ・デ・コムほか

▶5月28日(日)、東京・竹芝ニューピアホール/「DEEP TOKYO IMPACT 2023 4th ROUND」&「DEEP JEWELS 41」伊澤星花vs.アム・ザ・ロケットほか

 

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『伝説のオリンピックランナー“いだてん”金栗四三』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(いずれも汐文社)ほか多数。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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