20日、「NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 プレーオフトーナメント」(PO)決勝が東京・国立競技場で行われ、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S船橋・東京ベイ)が埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)に17-15で競り勝ち、初優勝を果たした。
3位タイ、3位、
ひとつずつ上がってきた階段をひとつ飛ばして頂点に到達した。
S船橋・東京ベイがトップディビジョンで初の優勝を成し遂げた。

午前は雨模様だった東京の空もキックオフ前には曇り空に変わって
いた。スタジアムは青と橙に染まった。新時代の目撃者となるか、
王者の盤石な戦いぶりを見届けるのか。
トップリーグ時代を含めても最多となる4万1794人が詰め掛け
た。
先制はS船橋・東京ベイ。チャンスとあれば、DGも狙う。18分にCTB立川理道、36分にはSOバーナード・フォーリーが迷わず3点を獲りにいった。いずれも外れたが、立川のキックはアドバンテージを得てのもの。その後のPGをフォーリーが決めた。

フォーリーは前半3本のPGすべてに成功した。
対する埼玉WKはSO松田力也が2本中1本。9-
3のスコアで試合を折り返した。
後半最初のスコアもS船橋・東京ベイだった。ピッチを離れると気さくなキャラクターだが、戦場では“アイスマン”と呼ばれる男が冷静沈着なスナイパーの如くゴールを射抜く。6分、PGで12-3とリードを広げる。

追いかける埼玉WKは10分にPRクレイグ・ミラー、
HO堀江翔太、15分にはSH内田啓介、
SO山沢拓也を送り出し、流れを変えようとする。18分、
左ラインアウトからのモールで堀江がトライ。
山沢がコンバージョンキックを決め、あっという間に2点差に。
さらに25分、WTB長田智希がS船橋・
東京ベイの両WTBの間を突き、インゴール右にトライを挙げた。
12-15と逆転を許したS船橋・東京ベイ。後半に逆転あるいは引き離すのを得意とする埼玉WKの勝ちパターンにはめられたかと思われたが、ここで沈まなかった。創部1978年、一時は2部(当時トップイースト)に降格したこともあり、初のファイナル進出となるスピアーズを光の射す方へ導いたのは立川だった。キャプテンはハドルを組み、チームメイトに「時間はある、ここで無理をして戦術を変えると逆に相手の思うツボになる」と伝えたという。

大一番にもチームの背骨は揺るがない。試合後、フラン・
ルディケHCも立川を「彼の強みは、
リーダーとしてメッセージを冷静に伝えられるところ」
と評し、こう続けた。
「今日の試合でも、そういった部分が必要な場面で、しっかりとやってくれたことが勝利に繋がったと思っています。実際に試合が始まったら、コーチ陣は判断をグラウンドの選手たちに委ねることになります。そういったプロセスの部分を彼がやってくれました」

リーダーに導かれたオレンジの戦士たちはブレなかった。29分、
SH藤原忍がセンターライン付近でハイパントを上げる。
埼玉WKのFB野口竜司とS船橋・東京ベイのNo.
8ファウルア・マキシが競り合い、
こぼれたボールをWTB根塚洸雅が拾った。根塚がゲインし、
藤原は立川へ繋ぐ。「キャッチした瞬間は誰かにパスをするか、自分で
キャリーするかという判断だった」。
キャプテンが選んだのは右足で左サイドへキックパスを送ることだった。

“ボールをよこせ”オーラを放ち、大外で待っていたのが木田である。
今季幾度も目にしたS船橋・東京ベイのトライシーン。「リーグ戦でも同じ場面があったので、同じように呼びました」。
24歳のトライゲッターはそのままインゴール左隅にボールを置いた。フォーリーのコンバージョンキックは決まらなかったものの、
スコアは17-15と再逆転に成功した。
77日前の熊谷ラグビー場では獲れそうで獲り切れなかったトライ
チャンスを、この日ばかりはモノにした。
埼玉WKのキックオフで、残りは約10分。当然、自陣でのペナルティーを与えることは禁物だ。粘り強く守る。38分にはLOヘルウヴェのタックルが突き刺さり、埼玉WKのLOマーク・アボットの落球を誘う。マイボールスクラムからボールをキープし、時計の針を進める。残り10秒はスタンドに陣取る“オレンジアーミー”(S船橋・東京ベイの選手、スタッフ、ファン、関係者の総称)のカウントダウンがこだました。ホーンが鳴ると、フォーリーが外に蹴り出し、試合の幕を引いた。

S船橋・東京ベイは最後まで自分たちのアイデンティティーを貫いた。「
自分たちのラグビーにフォーカスする」。これは指揮官、
キャプテンが何度も口にしてきた言葉だ。
信念というの名の鋭い槍を貫き、王座を勝ち取った。LO青木祐樹は言う。「今日の23人だけでなくスタッフ含めたチーム全員で勝ち取った優勝だと思う」。この日のテーマは「BE THE BEST」。ベストを尽くしてベストを掴み取った。
(文・写真/杉浦泰介)