今月10日、ピッツバーグ・パイレーツの桑田真澄投手がメジャー昇格を果たしました。しかも球団から用意された背番号は「18」。このことからも、首脳陣の桑田投手への期待感が高いことが窺い知れます。
 桑田投手は昨年9月に自身のホームページで巨人退団の意向を表明。その後、さまざまな憶測が飛び交う中、今年1月にパイレーツと正式契約を交わしました。当時は、「39歳という年齢では通用しないのでは?」「メジャーには昇格できないだろう」など否定的な意見も少なくありませんでした。
 しかし、僕は桑田投手のメジャー挑戦は非常にいいことだと思っていました。日本では技術や体力よりも、年齢で可能性の有無を判断しがちなところがあります。そのために、年齢が高くなればなるほどチャンスが少なくなる傾向にあります。これはスポーツだけでなく、ビジネスにおいてもそうでしょう。しかし、長年の経験から培ったベテランならではの知識や技術は若さをも凌ぐことが多々あります。ですから、年齢だけで可能性を否定してしまうのは間違いだと思うのです。

 プロスポーツはゲームに出てなんぼの世界ですから、所属しているチームでチャンスが掴めないのであれば、他に目を向けるのは選手として当然のこと。それこそが真のプロともいえます。39歳にしてなおそういった意欲をもてるというのは、それだけ高いプロ意識があるという証拠です。

 また、桑田投手は普段からしっかりとトレーニングを積んでいますし、野球を続けるためには自分に何が必要かということを人一倍考えています。ですから、僕は39歳という年齢への不安は少しも感じていませんでした。とにかく、いつメジャーのマウンドに立つ日が訪れるのか、その日を今か今かと期待しながら待っていたのです。

 不運なことに3月9日のトロント・ブルージェイズ戦で審判と衝突し、右足首を痛め、開幕メジャーは果たせませんでした。ケガをした場所が場所だけに心配しましたが、手術が必要になるような長期的なケガでなかったことは不幸中の幸いでした。

 さて、メジャーに昇格して以来、5試合にリリーフ登板しました。現在失点はデビュー戦のヤンキース戦、アレックス・ロドリゲスの本塁打で奪われた2点のみ。“レインボール”と呼ばれているカーブとストレートで緩急をつけ、相手バッターに的を絞らせない配球が光っています。

 そして、桑田投手の最大の武器といえば、やはりコントロールです。ストレートのスピードもなければ、特別ウイニングショットも持ち合わせていない桑田投手にとって、コントロールはまさに生命線。真ん中高めに入り、本塁打を打たれたロドリゲスへのボールを見てもわかるように、1球たりともコントロールミスは許されないのです。
 本人もデビュー戦で本塁打を打たれたことによって、そのことを痛感したのでしょう。2試合目以降は、コントロールミスもなく、ほぼ完璧に抑えています。

 また、日本ではファーストストライクは見逃すことが多いのですが、メジャーでは逆に初球からガンガン打ってきます。ロドリゲスの本塁打も初球でした。こうした日米の違いについての認識不足も、今後経験を重ねることによって、徐々に解消されていくでしょう。

 おそらく、桑田投手はしばらくワンポイントや短いイニングでのリリーバーとして起用されることでしょう。しかし、僕はやはり桑田投手は先発タイプのピッチャーだと思っています。あの集中力の高さは並大抵のものではありません。
 リリーバーとして経験を積みながら、メジャーの環境にも慣れ、もう一度徹底的に体づくりをすれば、先発に戻れるのではないか、と思うのです。桑田投手ほどのコントロールの持ち主なら、きっと『プロフェッサー』と称されるグレッグ・マダックス(サンディエゴ・パドレス)ほどのピッチャーに化ける可能性もあります。

 桑田投手のメジャーでの戦いは始まったばかり。巧みな投球術で相手バッターを翻弄する姿を数多く見られることを期待したいと思います。

 

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
◎バックナンバーはこちらから