第29回 「上原のクローザー」原監督の深謀遠慮

facebook icon twitter icon
 現在、セ・リーグの首位を昨年のリーグ覇者・中日と争っている巨人。この好調さは、やはり投手陣にあると見ていいでしょう。先発陣の数が揃っていることに加え、上原浩治投手がクローザー役を見事に果たし、ここ数年にはなかった一つの勝ちパターンが確立しつつあります。
 昨年まで、巨人が勝てなかった最大の理由は、リリーフ陣の不安定さにありました。特に絶対的なストッパー不在が首脳陣の悩みだったのです。そこで昨年、西武から豊田清投手を獲得し、最大の弱点を補強しようとしました。ところが、まさかの逆転負けが続いたり、シーズン途中には負傷で戦線離脱するなど、クローザーとしての役割をきっちり果たすことはできませんでした。今シーズンも調子を取り戻せず、不安定感を拭い去ることができていません。

 そこで、豊田投手の代わりにストッパー役に抜擢されたのが不動のエース・上原投手。もちろん、原辰徳監督は上原投手が先発への並々ならぬこだわりを持っていることは百も承知でした。しかし、クローザーとはその名の通り、ゲームの締めくくり役。勝負の行方を一任するわけですから、指揮官としては信頼のおける投手をクローザーにしたいのは当然のこと。今、巨人で最も信頼できる投手と言えば、上原投手以外にはいません。

 上原投手自身も、ある程度納得していると思います。ケガで出遅れていることで「チームに迷惑をかけている」という気持ち、今のチームの好調さを維持するために「自分も役に立ちたい」という思い――自身の体調とチーム状況を冷静に考えて、クローザー役を引き受けることにしたのでしょう。

 とはいえ、先発へのこだわりを完全に吹っ切ったわけではありません。彼は今でも常に先発として復帰したいと考えています。逆に、その強い気持ちが彼を奮い立たせ、今の素晴らしいピッチングへの原動力となっているのです。

「クローザーとしてやるなら、150キロはないとしんどいと思う」
 上原投手自身はこのようにコメントしていますが、私はそうは思いません。クローザーに不可欠なものは、2つあります。一つはコントロールです。例えば、クルーン投手(横浜)は日本では最も速いボールを投げることができますが、コントロールにやや不安が残ります。それに対して、ストレートはそれほど速くないものの、コントロールが抜群の岩瀬仁紀投手(中日)は、チームから絶対的な信頼感を得ています。150キロ以上のスピードボールを投げる藤川球児投手(阪神)でも、コントロールがなくてはあれほどの成績は挙げられません。

 そして、もう一つはウイニングショットです。日本だけでなく、メジャーリーグでも大活躍した“ハマの大魔神”こと佐々木主浩(元横浜)。彼は、ほとんどストレートとフォークボールの2種類しか投げていなかったにもかかわらず、素晴らしい成績を残すことができました。それは、ひとえにフォークボールというウイニングショットがあったからです。
 上原投手には、このコントロールもウイニングショット(フォークボール)もあります。それが、彼がクローザーとして成功している所以なのです。

 さて、上原投手自身は最終的には先発に戻りたいと、その機会を虎視眈々と狙っていると思いますが、原監督はどうなのでしょうか。
 あくまでも私見ですが、原監督もやはり上原投手は先発に戻そうと考えていると思います。では、クローザー役は誰がやるのか――僕は、原監督はまだ豊田投手を諦めていないと思うのです。実は、上原投手と豊田投手の投球パターンは非常に似ています。際どいコースへのストレートで追い込んで、最後はフォークボールで勝負。これが両投手の持ち味です。ですから、上原投手をクローザーに起用することによって、発奮させることはもちろんですが、豊田投手に本来の姿を思い出させようという狙いがあったのではないかと思うのです。

 ですから、最終的に上原投手は先発に戻ると思いますし、実際、内海哲也、金刃憲人、高橋尚成と左投手は充実しているものの、久保裕也、姜建銘と右投手はやや不安定という先発陣を考えても、エースの復帰は必要と考えていいでしょう。

 今、上原投手が抱えている最大の悩みは、なかなか完治しない太もも裏のケガ。肩やヒジに比べて、下半身のケガというのはクセになりやすく、非常に治りにくいのです。
「投げる」というのは、人間の自然な動きに反した動作です。ですから、疲労や痛みに非常に敏感になりますので、本人も十分に休養を与えようと慎重になりますし、手術やリハビリといった処置の仕方がある程度はっきりしています。

 一方、「歩く・走る」といった下半身の動きは、元々人間に備わっている動きの延長です。少しくらい痛くても動かすことができるために、軽く見てしまいがち。加えてスポーツ選手は誰でも、早く動きたいと思ってしまうもの。そのため、本当は7割程度しか治っていないのに、ついつい動かしてしまい、無意識に無理をさせてしまうことが多々あるのです。

 しかし、上原投手は今回、「投げたい」という気持ちを抑えて、無理せずにじっくり治そうとしています。この“我慢”がきっと、後半戦ではいきてくることでしょう。   
 夏前には、先発のマウンドに帰ってきたエースの姿を見ることができると期待しています。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP