序盤の“先制パンチ”があれだけの大勝を呼び込んだ。

 

 豊田スタジアムで行なわれた日本代表とエルサルバドル代表の一戦。エルサルバドルはカタールワールドカップで日本が敗れたコスタリカ代表と北中米カリブ海予選で戦っている(ホーム、アウェーともに1-2で敗戦)とあって今回、対戦候補に選ばれたと考えていい。

 

 電光石火とはまさにこのこと。

 

 キックオフからわずか12秒後、三笘薫が左サイドで突っかけたところでファウルをもらい、久保建英のFKをファーで谷口彰悟がヘディングで合わせた。52秒での先制弾。久保のキック、谷口のボールへの入り方は完璧だった。細かいことだが、セットしたボールに久保、右利きの旗手怜央の2人が立つ駆け引きがあり、ファーストチャンスから全員が集中していた。続いて相手のバックパスに1トップに入った上田綺世が猛然とプレスに向かい、ペナルティーエリア内で倒されてPKを得る。相手は退場になり、上田がPKをきっちりと決めて2点目を挙げた。

 

 前半4分で2-0、それにエルサルバドルは1人少ない状況。相手が弱かったと言えばそれまでなのだが、開始早々に相手の心をくじいたことが6ゴールを生むきっかけとなったのは言うまでもない。

 

 今回、筆者が注目したのは、センターバック板倉滉の相棒だ。3月シリーズ(対ウルグアイ代表、コロンビア代表)では瀬古歩夢、伊藤洋輝の2人が試されたが、このとき呼ばれなかったカタールワールドカップメンバーの谷口が復帰することになった。

 

 吉田麻也(34歳)、長友佑都(36歳)、酒井宏樹(33歳)ら30代中盤のフィールドプレーヤーが外れるなか、7月で32歳になる谷口のメンバー入りはちょっとした驚きでもあった。長年プレーした川崎フロンターレを離れ、昨年12月にカタール1部アルラヤンに完全移籍。中東のリーグから継続的に日本代表に呼ばれた選手はこれまでいないことからも、復帰は難しいと考えていた。

 

 森保一監督にこのことを尋ねた際、招集の意図をこのように説明している。

「(3月は)経験の浅い選手たちを含めてメンバーを構成したことと、(谷口が)移籍から間もなかったためということもあります。ゲームをコントロールして戦っていくなかでセンターバックが安定しなければ、チームの守備も攻撃も安定しないという意味において、その安定をもたらせる選手ではあると思います」

 

 安定というワードが3度飛び出しことは実に興味深かった。

 

 いい守備からいい攻撃。

 

 森保ジャパンのキーワードであることは言うまでもない。エルサルバドル戦では相手のプレッシャーもなく、危険な場面もほぼなかったとはいえ、ラインを高く押し上げてコンパクトな陣形をキープすべく陣頭指揮を執っていた。縦に急ぐところとパスを散らしてじっくり組み立てる見極めもスムーズで、谷口がいることによる安心感があった。

 

 板倉、アンカーの守田英正、左ウイングの三笘、左インサイドハーフの旗手とは同じ元フロンターレ組。三笘にボールを渡すタイミングなど、一緒にやってきた強みをあらためて確認できた。

 

 今回の1試合だけではもちろん何とも言えないし、20日のペルー代表戦は瀬古、伊藤洋輝のどちらかがセンターバックに入ってくるだろう。彼らのパフォーマンスももちろん見たうえでの相対評価になるだろうが、吉田というディフェンスリーダーが一度チームから離れたなか、谷口のインテリジェンスはやはり欠かせないと感じる。

 

 来年1月にはカタールでのアジアカップが控えている。同国のリーグでプレーする谷口の存在は貴重になってくるはず。指揮官の言う「ゲームをコントロール」という部分においても板倉の相棒は谷口が一番手になってくる可能性は十分にあるだろう。


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