今夏、欧州に渡るなら一番手は彼だろうなと思っていた。

 

 町野修斗、23歳。湘南ベルマーレからドイツ2部ホルシュタイン・キールへの完全移籍が6月29日に発表され、先日渡欧した。

 

 飛躍が期待される身長185㎝の大型ストライカーだ。キープしてよし、裏に抜けてよし、打ってよし、チャンスメークしてよし、守備してよしの万能タイプは昨シーズン日本人トップの13得点を挙げてブレイクし、追加招集でカタールワールドカップメンバーに滑り込んだ。クロアチア代表とのラウンド16では後半終盤にビブスを脱いで準備したが、結果的にはフィールドプレーヤーでは柴崎岳とともに出場機会がゼロに終わっている。悔しい経験になった一方でたくさんの刺激を受けることにもなった。彼は5月にインタビューした際、このように語っていた。

 

「ヨーロッパで揉まれた選手たちとずっと一緒にトレーニングできたのはポジティブなことだし、レベルも相当高かった。(世界を見ても)個の能力が高く、一人で局面を変えてしまう選手がたくさんいました。自分もそうなっていかないと次の北中米開催のワールドカップに出ることもできないし、活躍もできないと感じました」

 

 今シーズン、Jリーグでも意識の高いプレーを見せていた。4月1日のホーム、ガンバ大阪戦ではJ史上初めて前半だけで4ゴールを叩き出している。「Jリーグで無双するくらいの活躍」を目標に置き、ラストゲームとなった横浜F・マリノス戦でもPKで今季9ゴール目を挙げた。7月2日時点で得点ランキングは5位と“無双レベル”とまでは言えないものの、最下位に低迷するチームのなかで彼が奮闘してきたのは確か。残留争いのなかでの移籍に後ろ髪を引かれる思いはあるだろうが、次なるチャレンジに踏み切った気持ちは十分に理解できる。

 

「ワールドカップで試合に出られなかったのは、アジア予選を一緒に戦っていないという信頼感の欠如みたいなものもあると思うんです。僕としては予選から試合に出続けて、次の本大会に行く。それが目標でもあります」

 

 ワールドカップで刺激を受け、4年後この舞台で活躍することを胸に誓っていた。そのためには継続して代表に呼ばれ、信頼を勝ち取っていく必要があると考えた。日本代表は3月シリーズに招集されたものの、今回の6月シリーズはメンバーから外れている。1トップに入った“欧州組”の上田綺世、古橋亨梧、前田大然は1ゴールずつ奪っており、浅野拓磨を含めて彼らとの競争のなかに飛び込んでいくには“欧州でプレーすることがベスト“という決断を下したのだろう。

 

 ドイツ北部の海事都市キールをホームタウンに置くホルシュタイン・キールはこれまでブンデス1部で戦ったことはなく、日本のサッカーファンにとっても馴染みの薄いクラブだと言える。ただ2021年1月、DFBポカール2回戦において大会3連覇を狙うバイエルン・ミュンヘンを相手にPK戦の末に撃破するというアップセットを起こして話題になったことは記憶に新しい。バイエルンが2回戦で姿を消すというのは20年ぶりだったそうだ。この年(2020~21年シーズン)は2部3位となり入れ替え戦プレーオフでケルンに2戦合計2-5で敗れ、1部昇格を逃がしている。悲願達成に向けて町野への期待は大きい。

 

 欧州挑戦をドイツ2部からスタートさせ、プレーヤーとして飛躍したのが現在ヴィッセル神戸で活躍する大迫勇也である。

 

 町野と同じ23歳のときに鹿島アントラーズから1860ミュンヘンに完全移籍。2013~14年シーズン後半からの加入であったが、すぐさまレギュラーに定着して前線、中盤で起用され、15試合6ゴールの結果を残している。シーズン後にはブラジルワールドカップに出場し、1部に昇格したケルンに移籍。4シーズン過ごした後、活躍の場をブレーメンに移した。ロシアワールドカップではベスト16入りに大きく貢献している。

 

 大迫のキャリアアップ、そして万能のプレースタイルは町野にとっても参考にしたいところ。2部からはい上がって1部のチームでレギュラーを張っていければ、日本代表の1トップ争いに食い込んでいけるはずだ。

 

 過去にはドイツワールドカップで出場できなかった遠藤保仁も、ロシアワールドカップで出場できなかった遠藤航も、出場ゼロの反骨心をマックスまで引き上げて次のワールドカップにぶつけている。

 

 キール移籍はそのための第一歩。今度は町野が成し遂げる番である。


◎バックナンバーはこちらから