6月はエルサルバドル戦、ペルー戦と2試合をこなした日本代表。前者との試合は開始早々に退場者が出て“テスト”としては難しい展開となってしまいました(苦笑)。しかしながら、2試合とも大量得点で勝利し、スタジアムに足を運んだ皆様は派手で楽しめる試合だったのではないでしょうか。そんな中、僕のコラムではペルー戦の2点目に焦点をあてたいと思います。

 

 ゴールキックから6本

 

 ペルー戦の2点目は今後の森保ジャパンにとって、大きなヒントになりそうです。GK中村航輔(ポルティモネンセ)のゴールキックから始まりました。ショートでDF板倉滉(ボルシアMG)、右サイドバックの菅原由勢(AZ)とつなぎます。菅原はMF伊東純也(ランス)からヒールでリターンをもらい、右サイドタッチライン際を前進し、敵陣中央にポジションを取るMF鎌田大地(フランクフルト)にパスがわたり、さらに左サイドのMF三笘薫(ブライトン)へ。三笘がカットインを仕掛ける間、左インサイドハーフ・旗手怜央(セルティック)が三笘の外を周り、相手DFの注意を引きつけました。

 

 このゴールキックから右サイドでゲームをつくり、リズムよく左サイドに素早く展開し、ドリブラーの三笘が相手と1対1を仕掛けられるシチュエーションに持っていけた一連のビルドアップ。ピッチの横幅がおよそ68メートルですが、相手は片方のサイドに日本を“寄せた”と思っていたと思います。しかし、日本は「当てて、落として」のパス交換ををうまく使って右、中央、左へ展開しました。このかたちは今後、日本代表の“型”にすべきです。

 

 全国に向けた手本となるシーン

 

 GK・中村からすべての選手の位置取り、相手プレッシャーの誘い方、そのいない方もかみ合ったものでした。今後、このプレーの再現性を高められるか否かで森保ジャパンの進む道(ビルドアップ時の原則など)が決まりそうです。逆サイドの右ウイングにもドリブルが得意な選手が多い現在の日本代表ならなおさら効果的です。仮にこのプレーが研究、対策されれば、今度は他の箇所が空いてくる。ビルドアップの1つの“型”がやっと見えたことは森保ジャパンにとって、大きな意味がありそうです。それだけにとどまらず、高校生以上のサッカー選手にはまたとない教材になると思います。Jリーグ、WEリーグ、学生含めた日本全国すべてのサッカークラブが手本とすべきプレーだと、僕の目には映りました。

 

 森保一監督が新たな“サイドバック探し”をしているのは明らかです。これまで代表でフル稼働だったDF長友佑都(FC東京)やDF酒井宏樹(浦和レッズ)は第二次政権では未招集です。この3、6月シリーズでは右サイドバックを務めた菅原をはじめ、本来ウイングバックの森下龍矢(名古屋グランパス)や左サイドハーフの相馬勇紀(カーザピア)をテストしました。森下、相馬は攻撃色が強い選手たち。森下のフリーランニングや相馬のドリブルは武器ですからね。ここからは攻撃に厚みをもたせる、サイドを攻撃の起点にしようとする森保監督の姿勢、新たなスタイルが読み取れます。Jリーグにも良い選手はたくさんいるので、これからどんどん試してもらっても、興味深いです。

 

 さて、9月にはアウェーの地でドイツ代表と強化試合が組まれています。カタールW杯で見せた5バックではなく、現在推し進めているビルドアップのスタイルそのままで戦うことでしょう。どこがうまくいった、どこがうまくいかなかった、これらをはっきりさせる戦いにしてほしいと思います。この強化試合は僕も楽しみです。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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