鬼木フロンターレに逆襲の予感

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「試合前、ここを勝てば一気に情勢は変わってくるという話を(選手たちに)しました。ただ、負けてしまえば数字上こそ優勝の可能性はまだまだありますけれども、ただ数字は残っているだけで厳しくなるだろう、とも。そういう覚悟を持って挑まなきゃいけないゲームだと伝えていました」

 

 昨シーズン覇者で今季も首位に立つ横浜F・マリノス相手に後半アディショナルタイムにゴールを奪って1-0で勝利した川崎フロンターレの鬼木達監督は、試合後の会見においてリーグ中盤戦のこの試合を〝勝負の一戦〟に位置づけていたことを明かした。

 

 負けたら、終わり――。

 

 退路を断つような指揮官の言葉は、選手たちを十二分に鼓舞する形となった。

 

 後半28分、遠野大弥が得たPKを家長昭博が止められてしまったものの、チームは意気消沈することもない。大南拓磨、佐々木旭を投入して4-3-3から3-1-4-2に変更。サイドから押し込んでF・マリノスを引かせていき、あのゴールシーンが生まれたわけだ。

 

 遠野が右サイドからドリブルで中に向かい、パスを受けた瀬川祐輔が裏に出る大南にボールを送る。そこからの折り返しを車屋紳太朗が体ごとボールに突っ込んだ。ゴールに絡んだのは全員、後半から途中出場した選手であり、右ストッパーの折り返しを左ストッパーが決めるという、「(ディフェンス)3枚イコール守備ではなく攻撃的に」との鬼木の狙いがズバリとハマった。

 

 ヒーローとなった車屋はフラッシュインタビューでこう述べている。

「役割的には戻ってリスク管理しなくちゃいけなかったんですけど、きょう勝たないと優勝は厳しいと思っていたんで、拓磨なら絶対上げてくれると思って、最後信じて走り込みました」

 

 やるべきプランを全員で共有してやり切って結果に結びつけていく力。鬼木フロンターレの本来の強みが発揮された価値あるこの勝利は、反転攻勢のきっかけになるに違いない。

 

 森保ジャパンに名を連ねる三笘薫、旗手怜央、守田英正、田中碧、谷口彰悟らが主力を張っていたコロナ禍の2020年、2021年シーズンはぶっちぎりでリーグ2連覇を果たした。メンバーが次々に海外へ渡っていくなか昨年首位F・マリノスに勝ち点2差で2位にとどまった。とはいえ最終盤に4連勝しての猛追ぶりは、最後まで勝負をあきらめないフロンターレらしくもあった。

 

 谷口までが海外移籍を果たした今季、現有戦力での底上げを図ったものの、ケガ人を数多く出してしまう。特にセンターバックが駒不足に陥り、スタートダッシュに失敗したチームはなかなか浮上していかず、一時は15位まで順位を下げている。1試合で複数の得点を奪っていたかつての攻撃力は影を潜め、総得点数も下の順位から数えるほうが早くなった。

 

 それでも粘り強く勝ち点を積み上げながら今回、F・マリノスに勝って順位を7位まで戻した。何とか踏みとどまって上位に食らいつくことができているのは鬼木監督のマネジメントに依るところが大きい。

 

 彼の勝負勘は確かだ。

 

 思い出すのは前年に続いて優勝を果たした2021年シーズンのこと。9月に入ってルヴァンカップ準々決勝で敗れ、ACLもラウンド16で終わった。J1の戦いもF・マリノスに迫られていたなか、中3日及び中2日で5連戦を戦わなければならなかった。

 

 指揮官はチームに対して、こうハッパを掛けた。

「体力的にもきついとは思う。でもこれからの2週間が1年のなかで一番、重要になる。勝負の5連戦だ。優勝したかったら、ここの5つなんだ。みんな全力でやってほしい」

 

 終盤戦ではなく、敢えてこの5連戦を“天王山”とした。その理由を直接尋ねると、鬼木はこう応じている。

 

「ここまでの4年間で言うと勝負になるのはラスト5試合になると踏んでいたところはありました。でも今回は違う。この5連戦でダメだったら、残りの6試合に勢いを持ってこれないだろう、と。

“勝負の5連戦だぞ”と伝えて1つめ、2つめの試合で負けたり、引き分けたりしていたら自分の言葉が逆効果になる可能性だってあることも理解しています。それでも言葉にしなかったらパワーを生み出せないと思いました。逆効果になってしまったらそうなったで考えればいいこと。それよりも自分たちの進むべき道を示すことによって、チームの力が一番生み出されるんじゃないかと考えました」

 

 結果、5連戦すべてに勝利したことが“独走V”につながった。

 

 フロンターレ、2023年シーズンの“天王山”はまさにここ。大島僚太の再離脱はチームにとってかなり痛いし、マストとなっている補強もまだまだ不透明。踏ん張りどころであり勝負どころだろう。F・マリノスに勝っただけでは十分ではなく、首位に立ったヴィッセル神戸との次節アウェーマッチ(22日)を制すことができれば道は拓けると踏んでいるはず。

 

「アウェーで神戸という強い相手。きょう以上にしっかりと気を引き締めていかないといけない」

 

 鬼木監督のマネジメントから目が離せない。

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