目前に迫った「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」(8月25日開幕)。NBAやBリーグの解説でおなじみの塚本清彦さんと、当HP編集長・二宮清純が、日本代表の戦いを展望する。

 

二宮清純: いよいよバスケW杯が始まりますが、残念ながらNBAで活躍する八村塁選手の欠場が発表(6月27日)されました。

塚本清彦: 欠場の話を聞いても、驚きはしなかったというのが正直なところです。彼は今オフに制限付きFA(フリーエージェント)になっていて、移籍する可能性もあった。最終的にはレイカーズに残留(日本時間7月7日発表)しましたが、どこのチームに行くのか分からない状態でのナショナルチーム参加は、リスクが大きいと思っていました。

 

二宮: 八村選手も欠場に当たって「とても難しい判断でした」とコメントしていますが、「出場したい」という思いもあったのでしょうね。

塚本: そうだと思います。ただ、バスケは身体接触がありますから、何が起こるか分かりません。加えて、シーズンと長いプレーオフを戦った体のケアも必要です。もちろん、出場への期待は大きいものがありましたが、これからも続く彼のNBAキャリアを考えれば、やむを得ない判断でしょう。

 

二宮: 八村選手が欠場することで、日本代表の戦力的には、やはり痛手になるでしょうか。

塚本: そんなことはありません……と言いたいところですが、多少の影響はあると思います。別競技なので単純な比較はできませんが、もしWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で大谷翔平選手がいなかったら、日本代表にとっては痛い損失でしょう。

 

二宮 分かりやすい例えです。

塚本 一方で、八村選手がいないからといって、今の日本代表のバスケのやり方を変える必要はないと思います。トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)の追求するバスケをやるだけです。

 

二宮: 日本代表の戦い方については後ほどうかがうとして、NBAで活躍する選手の強みは何でしょうか。

塚本: フィジカルの強さが日本とはまるで違います。とにかく当たりに対して強い。八村選手も4年間NBAでプレーしたことで、相手のエースに対してもコンタクト(相手への接触)でかなりのプレッシャーをかけられるようになりました。

 

二宮: そうした経験は、日本代表にとって大きな戦力になりますね。

塚本: そうですね。でも八村選手以外にも、海外経験を生かしている選手はたくさんいます。例えばBリーグで活躍している富樫勇樹選手(千葉ジェッツ)は、高い軌道を描くフローターシュートを一つの武器にしています。それを可能にしたのは、高校時代にアメリカに行ったことです。小柄(167cm)な富樫選手は、普通に打っていては簡単にブロックされてしまう。そこでフローターシュートの使い方やスキルを身につけたのです。

 

二宮: 厳しい環境に身を置いて初めて高いスキルを得ることができるわけですね。

塚本: はい。八村選手の場合も米ゴンザガ大学に行った途端に、周りには圧倒的に大きな選手が大勢いた。そんな環境の中でコーチからよく言われたのは、「虎になれ」ということだったそうです。

 

二宮 ほう。それはどういう意味でしょうか。

塚本:「獲物を狙うように、果敢に攻めていけ」ということです。日本にいると、要領よくやろうとしてあまりぶつかりにはいかないのですが、それではアメリカで通用しません。優秀な選手がわずか15歳~16歳で世界中から集まってくるアメリカでもまれるのは、それだけすごいことなのです。

 

二宮: 今回のW杯は、日本・フィリピン・インドネシアの3カ国共催です。グループAからHまで8つに分かれ、各グループ上位2チームが2次リーグへ進出。その上位2チームが、準々決勝へと進みます。グループEの日本はドイツ、フィンランド、オーストラリアと同組。世界ランキングはオーストラリアが3位、ドイツが11位、フィンランドが24位で、日本は36位です(2023年2月時点)。ランキングだけを見れば、かなり厳しいグループといえますね。

塚本: 確かにそうですが、バスケの世界ランキングは必ずしも実力を反映してはいません。なぜならNBAのシーズン中に行われる国際試合には、NBA選手はほとんど出場していないからです。

 

二宮: なるほど。NBA選手が加わることで、ランキングでは推し量れないプラスアルファが生まれるわけですね。ちなみに、NBA選手が多いのはどこですか。

塚本: 当然アメリカがダントツですが、次いでカナダ、他にフランス、オーストラリア、ドイツなども多いです。

 

二宮 1次リーグ突破には、やはり初戦(ドイツ)が大事だと思います。しかし、NBA選手も多いとなるときつい戦いになりそうですね。

塚本 強いのは確かです。でもホーバスHCは、勝てない相手ではないと考えているようです。恐らくドイツのスターター(スターティングメンバー5人)にはNBA選手が名を連ねると思いますが、途中でどうしても国内組との交代が必要になります。NBA組がなかなか練習に参加できない中で、どこまでチームに戦術が浸透するか。その辺に付け入る隙がありそうです。

 

二宮: 2戦目のフィンランドはどうでしょう。

塚本: ヨーロッパ予選で最初に本大会出場を決めたことを見ても、侮れない相手です。中でもNBAのジャズに所属するラウリ・マルカネン選手は、2メートル13センチのオールラウンダーで、もし出場してくれば彼をどう止めるかがカギになるでしょう。

 

二宮: 3戦目のオーストラリアは?

塚本: NBA選手も多く、東京五輪では銅メダルを獲得しています。格上と言わざるを得ません。

 

二宮: すると1次リーグ突破は簡単ではないと……。

塚本 はい。ただ、今回のW杯にはもう一つ、「アジア勢で最上位」という目標があります。それによって来年のパリ五輪の出場権が得られるのです。その意味では、一つでも多く勝つことを目標に頑張ってほしいですね。

 

(詳しいインタビューは8月1日発売の『第三文明』2023年9月号をぜひご覧ください)

 

塚本清彦(つかもと・きよひこ)プロフィール>

1961年2月26日、兵庫県出身。育英高校から明治大学を経て日本鋼管に入社。ポジションは主にポイントガードを務め、日本リーグ優勝2回、オールジャパン優勝2回に貢献。1993-94シーズンは、ベスト5を受賞した。96年の現役引退後は、明治大学ヘッドコーチ、法政大学ヘッドコーチ、ヒューマンアカデミーが運営する「バスケットボールカレッジ」の学園長などを歴任。現在はNBA、Bリーグ解説など、バスケットボールのスポーツジャーナリストとして活躍中。愛称は「ツカちゃん」。


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