斎藤利之(全日本知的障がい者スポーツ協会会長)<後編>「障がいのある人が夢を持てる社会に」

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伊藤数子: 斎藤さんは学生時代からバスケットボールをやってこられて、早稲田大学の男女バスケットボール部のコーチも務められました。知的障がい者スポーツに関わるきっかけは?

斎藤利之: 兄です。兄が勤めている会社が知的障がい者バスケットボールの日本代表チームの合宿をサポートしていました。その兄から「利之、今度合宿あるから観に来いよ」と誘われたんです。

 

二宮清純: それまで障がいのある人のバスケットボールを指導したことは?

斎藤: 全くありません。その合宿に参加したことで、知的障がいといっても、いろいろな特徴や個性があることを知りました。

 

二宮: なるほど。それまで指導してきた別のものだったと?

斎藤: そうですね。その時、私に芽生えた感情は指導の難しさです。兄は指導者としての私の視野の狭さ、引き出しの少なさに気付いていて、「利之、もっと勉強しろ」と伝えたかったんだと思います。当時、私は30歳前後。その後、大学院に進み、知的障がいについて、アカデミックな部分をたくさん勉強しました。

 

伊藤: 全日本知的障がい者スポーツ協会(ANiSA)の会長に就かれたきっかけは?

斎藤: 私自身がANiSAの設立に、深く関わっていたこともあり、自然な流れで会長に就任しました。

 

二宮: ANiSA設立から6年経ちましたが、ここまでの手応えは?

斎藤: もちろんあります。一番大きく変わったのは、いろいろな企業にご協力いただき、認知度が上がってきたこと。これは我々だけの力ではなく、スペシャルオリンピックス(SO)の存在も大きかった。

 

 国際大会を日本に招致

 

二宮: よく比較されるとは思いますが、ANiSAとSOの違いは?

斎藤: 最も大きな違いは、ANiSAは、基本的に競技性を重視しており、SOは楽しむことに重きを置いている点です。

 

伊藤: 今後、取り組んでいきたいことは?

斎藤: 今はVirtus(国際知的障がい者スポーツ連盟)グローバルゲームズなどの国際大会を日本に招致することです。同大会は、今年6回目を迎えましたが、まだ日本での開催はありません。私はVirtus Asia sports Director(ヴァータス・アジア・スポーツ・ディレクター)として、アジア全体の知的障がい者スポーツにも関わっているのですが、他国からも「日本で国際大会を開催してくれ」という要望が上がっています。実は、過去にVirtusグローバルゲームズ2023年大会も横浜市で招致を目指したことがあります。開催予定都市の横浜市は、大変協力的でしたが、その他様々な理由で断念せざるを得ませんでした。大変悔しい思いをしました(苦笑)。

 

二宮: 4年後の招致を目指すんでしょうか?

斎藤: 現在、2026年アジア・オセアニア大会、翌年グローバルゲームズの開催都市はまだ決まっていません。しかし、2025年にデフリンピックが東京で、2026年にアジアパラリンピックが名古屋で開催されるため、既にこの2大会に協賛している企業様からは予算が得られにくいと考えております。国内での認知、理解を地道に上げていくしかないと考え、少し変化球ですが、今年11月にVirtusの総会・理事会を日本で開催することにしました。

 

二宮: 総会・理事会の開催は日本全体に広く知ってもらう意味で大変有意義ですね。

斎藤: はい。総会の日本開催は初ですし、いいアピールになると思っています。これを国際大会招致のステップボードにしたい。我々は、障がいのあるすべての人の「クオリティ・オブ・ライフを上げる」ことに加え、「生活が豊かになる」、さらには「夢が持てる」ことを目指しています。もちろん競技レベルを上げることも大事なプロセスです。国際大会で活躍する選手を見て、障がいのある人が夢を持てる社会にしていきたいと考えています。

 

(おわり)

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斎藤利之(さいとう・としゆき)プロフィール>

一般社団法人全日本知的障がい者スポーツ協会会長。1974年、静岡県出身。小学3年生でバスケットボールを始める。浜松西高校を経て早稲田大学に入学。大学時は早大の1部昇格に貢献し、4年時には主将としてチームを16年ぶりのインカレベスト4に導いた。大学卒業後は学習塾を経営する傍ら、早大女子バスケットボール部のコーチを務めた。現在は都内のいくつかの大学で教鞭を執る。また地域社会へも積極的に関与し、東久留米市子ども子育て会議の会長や公益社団法人日本発達障害連盟の理事など多くの公的な委員活動、また内閣府の事業も多数手掛ける。パラスポーツ分野では、一般社団法人全日本知的障がい者スポーツ協会会長を務めながら、Virtus Asia sports Directorとして、アジア全体の知的障がい者スポーツの発展にも尽力している。

 

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NPO法人STAND代表の伊藤数子さんと二宮清純が探る新たなスポーツの地平線にご期待ください。

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