櫻井つぐみ(育英大学レスリング部/高知県香南市出身)第1回「切れない視線」

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 9月にセルビア・ベオグラードで開幕する世界レスリング選手権大会は、パリオリンピックの予選も兼ねている。5位以内に入れば出場枠獲得。表彰台に上がればパリオリンピックの日本代表に内定する。女子57kg級に出場する櫻井つぐみ(育英大学4年)とっては世界選手権3連覇(2021年は55kg級)を目指す大会となる。
 
「一昨年と去年、優勝しているので、3連覇したい。世界選手権で優勝できる実力がないと、オリンピックで金メダル獲得する目標達成は難しいと思うので、世界選手権で絶対優勝したいです」
 世界選手権を2カ月前に控えたある日、育英大学を訪ねた。群馬県高崎市にキャンパスを置く同大。レスリング部は創設間もないが、柳川美麿監督の指導の下、世界選手権メダリスト、全国大会制覇者を輩出している。その筆頭格が櫻井だ。練習パートナーを務める上野裕次郎とひとつひとつの動作を確認しながらトレーニングに励んでいた。
 
 自らの長所を「最後まで諦めないこと」と語る櫻井は、両手で相手の片腕を取り、技を繰り出す“ツーオンワン”を得意とする。鋭いタックルや豪快な投げ技でビッグポイントを稼げるわけではないが、粘り強く戦うスタイルだ。 
 その「最後まで諦めないこと」は、今年7月の世界選手権日本代表選考プレーオフでも垣間見えた。昨年の全日本選手権準決勝で敗れた南條早映(東新住建)との一戦。明治杯全日本選抜選手権決勝では試合終了間際での逆転勝利だったが、プレーオフも試合終了間際まで櫻井は0対2で負けていた。敗色濃厚の窮地から、渾身のがぶり返しを繰り出し、ビデオ判定の末に2対2の同点に追いついた。ラストポイントにより櫻井に軍配が上がった。
 
 努力をできる才能
 

「南條選手とやる時は本当に、どの試合もギリギリ」。互いに手の内は分かっている。必然的に膠着状態に陥る。徹底したのは、ブザーが鳴り終わる瞬間まで集中を切らさないこと。そう口にはしても、簡単に実践できることではない。 だが櫻井は「相手より先に構える自分のスタイル」とレフェリーが試合を止めるなどしても、すぐに構えて相手より先に再開を待った。その間、相手への視線は決して切らさない。「『先に構えて闘志を剥き出しにしていれば、オレは安心してセコンドで観ていられる。それがつぐみのスイッチだ』と言って送り出す。彼女はそれを実践しているのだと思います」と柳川。相手より先に構え、戦闘態勢を取るのはレスリングの師である父・優史の教えだ。

 
 イソップ寓話の『ウサギとカメ』で言えば、自他共に認めるカメタイプである。「習ってすぐできる人もいますが、私の場合は習ってから時間がかかる。何回やってもできなくて、ひたすら続けていくうちに、ふとできるようになる。感覚を掴むのが人より遅い」と本人。練習パートナーの上野も「きつい練習でもそれを顔に出さず、素直に練習に取り組んでいる印象があります」と努力家の面を認める。
 
 さらに彼女を指導する柳川にも話を聞いた。
「一番の強みは努力できること。それは簡単なことではありません。元々の才能、身体能力がずば抜けているわけではない。その積み重ねの練習で習得した技のレパートリーは多い。レスリングに対する理解も深く、例えば私が練習中、言葉で表現したことを、実践することができる。だから私は彼女を『先生』と呼んでいます」
 
 3歳でレスリングを始め、小中高大といずれも全国制覇を経験している櫻井だが、決してエリート街道をひた走ってきたわけではない。地道にコツコツと技術と体力を積み上げてきたからこそ今の櫻井があるのだ。
 
(第2回につづく)
 
櫻井つぐみ(さくらい・つぐみ)プロフィール>
2001年9月3日、高知県香南市生まれ。女子57kg級。3歳で父が創設した高知レスリングクラブで競技を始める。野市小、野市中、高知南高(現・高知国際高)を経て、20年に育英大学に進学。小中高と全国大会を優勝。特に中学時代は全国中学選手権大会3連覇を達成した。3年時には世界カデット選手権も優勝。20年に全日本選手権初優勝(55kg級)を果たすと、翌年の世界選手権初出場初優勝。階級を57kg級を上げた後も全日本選手権(21年)、世界選手権(22年)を制した。身長156cm。好きなアーティストは、あいみょん。

 

(文・写真/杉浦泰介)


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