3日の徳島戦は大変な遠征になりました。ナイター後の帰り道でバスが故障。急遽、バスを2台チャーターしたものの、愛媛に着いたのは夜中の3時半……。さすがに全員クタクタで翌日の練習は休みにしました。今年は専用バスを寄贈していただいて、遠征が快適になっただけに残念です。

 バスは止まってしまいましたが、チームはようやくエンジンがかかってきました。投打のバランスがよくなったことが好調の要因です。打撃では選手たちがようやく積極的に打つ姿勢をみせてくれるようになりました。
 NPBとアイランドリーグの打者の大きな違いは“打つ勇気と止める勇気”にあります。NPBのバッターは、打てるボールであればファーストストライクからどんどん打とうとします。打ち損じたらどうしようとか、ボール球だったらどうしようというマイナス思考では打席に立っていません。

 もちろん、どんなボールでも打てばいいわけではありません。打ちに行く姿勢を見せつつも、狙い球やコースが違えば、バットを“止める勇気”が必要です。リーグの打者は平然と見逃し、漫然と振ってしまう。その点を斉藤浩行コーチと開幕からうるさく野手たちに指導してきました。

 選手たちに変化が見えてきたのは5月17日の東部球場での高知戦です。0−6で迎えた最終回、各打者が2ストライクと追い込まれる前に打って、3点を返すことができました。これまでなら大事にいこうと、打てる球を見逃して終わっていたはずです。その試合は敗れましたが、いい予感はすぐに当たりました。翌日の徳島戦から打線が爆発し、今季初の4連勝。うち3試合は2ケタ得点をあげています。ケガで離脱していた比嘉将太も復帰し、打線に厚みが出てきました。

 投手陣では浦川大輔近平省悟の両先発が安定しています。浦川はリーグトップの4完封。シーズン当初はクローザーに起用しましたが、開幕投手を務めたルーキーの梶本達哉や、“隠し球”の森琢哉に下半身強化やフォーム矯正の時間を与えるため、再び先発に戻しました。

 彼の今季の目標は「ストレートを見直せ!」。フォームをダイナミックなものに変え、トレーニングもしっかり行ってきました。細身ですが、肩の周りの筋肉はがっちりしてきたように見えます。130キロ台の球速だったストレートは10キロ増して、145キロを計時するまでになりました。カットボールなどの変化球はいいだけに、速球に威力があれば、スカウトたちも注目してくれるはず。夏場以降も浦川には直球でどんどんアピールさせたいと思っています。

 一方の近平は打たせて取る技術を覚えました。緩急をうまく使い、コントロール重視のスタイルに変えたことが大きいですね。彼のひとつの武器は曲がりの大きなスライダーですが、昨オフ、僕はある注文をつけました。それは小さく鋭く曲がるスライダーにすること。これだとバッターはなかなか見分けがつきません。スライダーと右打者のインコースを突くボールを投げ分ければ、そんなに連打はくらいません。事実、現在の防御率は0.95(リーグ1位)。NPBとの交流戦でも好投しています。

 さらにワンランク上を望むとすれば、シュートを覚えてほしいですね。最近はNPBでもシュートピッチャーが少なくなりました。ただ、スライダーとシュートのコンビネーションは、打者にとって厄介そのもの。球速があまりないだけに、内外を厳しく突ける投手になることがドラフト指名への条件になるでしょう。

 4、5月は負けが込んで、ファンの皆さんには申し訳ありませんでした。ただ、愛媛は若い選手が多く、敗戦の中でいい経験ができました。まだまだ状況に応じた動きや細かいプレーなど勉強することはたくさんありますが、最低限のことはできるレベルに到達しています。前期シーズンは残りわずか。簡単には負けない戦いで上位を苦しめるつもりです。ぜひ、愛媛のこれからに注目していてください。

浦川大輔(うらかわ・だいすけ)
 1981年10月5日、福岡県出身。若松高から福岡工大をへてリーグ初年度の05年から愛媛へ。昨年は14勝7敗5S、最多奪三振のタイトル(174個)を獲得した。速球とカットボールなどの変化球が武器。

近平省悟(ちかひら・しょうご)
 1981年2月12日、愛媛県出身。宇和島東高時代は甲子園も経験。近畿大ではノーヒットノーランを達成した。クラブチーム、松山フェニックスを経て05年途中から、愛媛に入団。195センチの長身を生かし、今季は66イニングを投げて防御率0.95(リーグ1位)と好投を続けている。

沖泰司(おき・やすし)プロフィール>: 愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1961年1月5日、松山市出身。松山商、明治大を経て社会人のスリーボンドで頭角をあらわし、チームの主軸を務める。86年ドラフト4位で内野手として日本ハムファイターズに入団。90年の退団までに投手以外のポジションは全てこなし、ユーティリティプレーヤーとして活躍した。アイランドリーグでは初年度に愛媛マンダリンパイレーツのコーチを務め、2年目からは監督に就任。今季は悲願の初優勝を目指す。




★携帯サイト「二宮清純.com」では、独立リーグのコラムコーナーが新しく誕生しました。題して「四国&北信越独立リーグ紀行」。四国アイランドリーグ、北信越BCリーグの監督、コーチ、選手が毎週火曜日に交代で登場し、それぞれの今をレポートします。
 今回は沖監督のコラムです。「打率1割の松坂弟を外せない理由」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。


太陽石油はアイランドリーグのオフィシャルスポンサーです[/color][/size]
◎バックナンバーはこちらから