明日から9月です。小学生たちの夏休みが終わり、僕が支配人を務める鹿島ハイツはまだ夏休みが残っている大学生たちが合宿利用で、あとは指導者講習会などで施設を使ってくれています。徐々に利用してくれている人たちが戻りつつあります。

 

 大健闘のなでしこたち

 

 サッカー女子ワールドカップオーストラリア・ニュージーランド大会はスペイン代表の初優勝で幕を閉じました。女子日本代表(なでしこジャパン)の成績はベスト8でした。大健闘だったと言っていいと僕は思います。優勝国スペインを唯一、グループリーグで破ったのがなでしこでした。しかも、圧巻の4対0です。あそこからスペインは目がさめた感はありましたね。

 

 それにしても、ボール保持を得意とするスペイン相手に見せたカウンターは見事でした。特に先制点です。左ウイングバックのMF遠藤純(エンジェル・シティーFC)のアーリークロスに俊足をいかしてゴールを決めたMF宮澤ひなた(マイナビ仙台レディース)は見事でした。遠藤のクロスも見事でしたが、宮澤はかなり長い距離を走ってゴールに押し込みました。よくやったと思います。宮澤は今大会5ゴールを決め、得点王に輝きました。彼女はマンチェスター・ユナイテッド移籍に向けて渡英したという報道もあります。日本から海外クラブに移籍し、厳しい環境でプレーし、その経験を代表でいかしてほしい。そうすれば、なでしこはさらにレベルアップします。

 

 意識向上の連鎖が生む好循環

 

 日本人選手の海外移籍だけが全てではありません。むしろ、もっとも大事なのはWEリーグでプレーするWEリーガーの意識だと思います。やっぱり、自国のリーグの盛り上がりは大事です。今回、W杯を経験したWEリーガーが所属クラブに帰り、経験したこと、学んだことをしっかり還元することが一番大事です。世界の守備強度、プレッシングの速さを肌で感じたはずです。それを普段の練習から再現すべきです。

 

「もっと、プレスを速く! 強度も強く!」といった要求が選手個々を鍛え、それがクラブの強化につながります。各クラブ、ハイプレスの中での練習が当たり前になってくれば、おのずとWEリーグ全体のレベルアップにつながります。いきなり、決定力をあげろ! 

言っているわけではないんです。守備の強度については己の意識ひとつで、いかようにも変わります。極端な話、明日にでも変えられます。個々の意識向上の連鎖が、WEリーグレベルアップにつながることを各選手、自覚してほしいものです。結局、厳しい守備の中で練習や試合をすることが一番の攻撃面スキル上達の近道ですからね。練習中からの本気のバトルを僕は要求します。

 

 興味深いアジア競技大会

 

 なでしこ戦士たちはW杯を戦い終えたばかりですが、9月23日にはアルゼンチン代表との親善試合が控えています。加えて、同時期に中国でアジア大会が開催されます。アジア大会にはWEリーガーを中心とした編成で臨むことが決まりました。先日、アジア大会のメンバー発表がありましたが、注目は10番のMF塩越柚歩(三菱重工浦和レッズレディース)あたりでしょうか。東京五輪に出場しながらも、徐々に代表からフェードアウトしてしまいました。塩越は昨季、WEリーグで攻撃的MFから一列ポジションを下げ、ボランチに転向したようです。新たなポジションで再び代表返り咲きを狙っているでしょう。アルゼンチン戦はベストメンバーで臨むでしょうが、僕はアジア大会メンバーの方が興味深いです。復活を狙う選手、新たにアピールする選手とこちらの方がいろんなストーリーがありそうで楽しみ。選ばれた選手たちには頑張ってほしいものです。監督目線で述べれば、戦力に厚みを増す絶好機です。ここで戦力を見極めて、10月下旬からスタートするパリ五輪アジア二次予選に臨みたいところです。

 

 さて、楽しみといえば9月は男子A代表にも注目ですね。カタールW杯で勝利したドイツ代表と、アウェーで強化試合が行われます。W杯では後半から5-4-1の守備的布陣から勝機を見出しました。今回はせっかくの強化試合です。もちろん、日の丸を背負う以上、勝利を目指すのはいうまでもありませんが、今回は攻撃的にいってほしいものです。どこが通用し、どこが通用しなかったのかをはっきりさせることが大事な一戦になります。ドイツ的には同じチームに立て続けに負けるわけにはいかなでしょうし、まして今回は自国での試合ですから、手を抜くことは考えにくい。絶好の強化の場となりそうです。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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