第774回 金田正一に「カネムラさん」の抱腹
ジャイアント馬場が生前、ある民放テレビ局に足を運んだ時のことだ。
<この原稿は2023年9月4日号『週刊大衆』に掲載されたものです>
受付で、軽く手を挙げ、入館しようとすると、受付嬢に呼び止められてしまった。
「お約束はされていますか?」
「はい。あのォ、馬場ですけど……」
天下のジャイアント馬場である。しかも2メートル9センチの巨体だ。まさか、自分のことを知らない人間など、この世にはいないと思っていたはずだ。
だが、それは甘かった。
「どちらの馬場さんですか?」
この一言に、周囲が凍り付いたのは言うまでもない。
近年、プロ野球OBから、よくこの類の話を耳にする。
過日、ベストナインの常連だった60代の元選手が、後輩たちを激励するため、球場に出向いた。
そこで売り出し中の選手に「よく頑張っているな。今度メシでも食いに行くか?」と話しかけると、真顔でこう聞き返されたという。
「すみませんが、オジさんは誰ですか?」
苦笑を浮かべて、初老のOBは言った。
「ファンならいざ知らず、自分の後輩だよ。ショックで、その夜は眠れなかったよ」
今の選手の大半は1990年代半ばから2000年代前半までに生まれた、いわゆる“Z世代”だ。彼らからすれば、“昭和の選手”は、単なるオジさんなのかもしれない。
この手の話の中でも極め付けは、巨人時代の内海哲也がやらかした“カネムラさん事件”だ。
06年の宮崎キャンプに、史上たったひとりの400勝投手である巨人OBの金田正一が訪れた。
原辰徳監督が「この方を知っているだろう?」と水を向けると「カネムラさん」と答えてしまったというのだ。400勝についても知らなかったようだ。
そこは大物のカネやん、「かわいいヤツじゃないか」と言って、その場をとりなしたが、腹の中は煮えたぎっていたに違いない。ある意味、内海も大物である。