ジャイアント馬場が生前、ある民放テレビ局に足を運んだ時のことだ。

 

 

<この原稿は2023年9月4日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 

 受付で、軽く手を挙げ、入館しようとすると、受付嬢に呼び止められてしまった。

 

「お約束はされていますか?」

 

「はい。あのォ、馬場ですけど……」

 

 天下のジャイアント馬場である。しかも2メートル9センチの巨体だ。まさか、自分のことを知らない人間など、この世にはいないと思っていたはずだ。

 

 だが、それは甘かった。

 

「どちらの馬場さんですか?」

 

 この一言に、周囲が凍り付いたのは言うまでもない。

 

 近年、プロ野球OBから、よくこの類の話を耳にする。

 

 過日、ベストナインの常連だった60代の元選手が、後輩たちを激励するため、球場に出向いた。

 

 そこで売り出し中の選手に「よく頑張っているな。今度メシでも食いに行くか?」と話しかけると、真顔でこう聞き返されたという。

 

「すみませんが、オジさんは誰ですか?」

 

 苦笑を浮かべて、初老のOBは言った。

 

「ファンならいざ知らず、自分の後輩だよ。ショックで、その夜は眠れなかったよ」

 

 今の選手の大半は1990年代半ばから2000年代前半までに生まれた、いわゆる“Z世代”だ。彼らからすれば、“昭和の選手”は、単なるオジさんなのかもしれない。

 

 この手の話の中でも極め付けは、巨人時代の内海哲也がやらかした“カネムラさん事件”だ。

 

 06年の宮崎キャンプに、史上たったひとりの400勝投手である巨人OBの金田正一が訪れた。

 

 原辰徳監督が「この方を知っているだろう?」と水を向けると「カネムラさん」と答えてしまったというのだ。400勝についても知らなかったようだ。

 

 そこは大物のカネやん、「かわいいヤツじゃないか」と言って、その場をとりなしたが、腹の中は煮えたぎっていたに違いない。ある意味、内海も大物である。

 


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