完全復活の中山雄太に酒井宏樹のエッセンスを感じた
中山雄太がグレードアップして日本代表に戻ってきた。
昨年のカタールワールドカップメンバーに選出されながらも右アキレス腱断裂の大ケガを負い、無念の辞退となってから約11カ月。リハビリを乗り越えてイングランド2部ハダースフィールド2シーズン目となった今年8月に公式戦に復帰し、クラブでの安定したパフォーマンスを評価されて日本代表10月シリーズのメンバーに名を連ねた。
13日のカナダ代表戦は左サイドバックで先発フル出場。昨年よりもひと回り体がゴツくなった印象を受け、対人の強さ、的確なポジショニングで左サイドの優位性を保つことに一役買った。これまでは守備のイメージのほうが強かったものの、積極的かつ効果的に攻撃に絡んでいく“ニュー雄太”がそこにはいた。
後半4分には中山が起点となってチームの4得点目が生まれている。相手陣営に押し込んだ状況でボールを回収した遠藤航からパスを受け、裏に抜けようとする南野拓実に絶妙なボールを送る。そこから伊東純也、田中碧とつながってのゴールであった。
17日のチュニジア代表戦でも先発して後半18分までプレー。前半43分、古橋亨梧の先制ゴールのシーンも、左サイドでフリーになっていた。前にいる旗手怜央を活かしつつ、自分も活きる位置取りによって、守田英正、久保建英と連係しながら守りを固めるチュニジア攻略に貢献したことは言うまでもない。
センターバック、ボランチもできるユーティリティープレーヤーではある。ただ筆者としては「サイドバック中山」がしっくりくる。バランスを取りつつ、勝負のときの力強さが増している。守備力のハイスペックによって最終ラインに安定感をもたらせ、パス、機動力、運動量も魅力であることを十分に示した。そして攻守において連係をスムーズにさせる存在でもある。日本代表の試合は昨年9月のアメリカ代表戦以来だったが、すぐさま順応していた。
何よりサッカーのインテリジェンスが高い。適応力もそうだが、吸収力も彼を語るに外せない要素だ。今こうやってサイドバックらしいサイドバックになっているのは、酒井宏樹との出会いが大きかったように感じる。
一昨年の東京オリンピックを終えて彼にインタビューした際、オーバーエイジとして参加した酒井について尋ねたときのことだ。
「試合のハーフタイムでもそれ以外でも質問攻めみたいな形で酒井選手から教わりました。この状況で何を捨てて何を選択しなきゃいけないのか、そもそも僕は持っていなかったので、その基準になったのは大きかったと思います」
プレーの優先順位と取捨選択。ここがしっかりとあるから、酒井のあのダイナミズムが生まれてくる。思い切りよくいくところと、慎重にいくところ。その判断の軸が、中山のなかでだいぶ整理されてきているように感じる。
大ケガに負けず、ピッチから離れた時間を充実させてきたことは想像に難くない。
以前、オランダのスヴォレで出場機会に恵まれなかった際も、ケガで離脱した際も自分を見つめ直してレベルアップを図ってきた。ネガティブなことが身に降りかかっても、結局はプラスにしてしまうのだ。
彼からこう聞いたことがある。
「サッカーでの経験で言えば、間違いなく精神と肉体はマッチする。ただ僕のなかでは精神が先行してある。いい精神があればいい肉体がついてくると思うので、鍛えられるのであれば精神のほうをどんどん磨いていきたい」
アキレス腱断裂の大ケガは、メンタルを「鍛える」時間になったに違いない。体のみならず、メンタルもひと回り大きくなったと言える。
日本代表が抱える課題となっていた長友佑都の“後継者”は、解消されつつある。ドイツ代表、トルコ代表を相手に2連勝した先の欧州遠征で評価を上げた伊藤洋輝、今回のチュニジア戦で中山と交代して出場した町田浩樹、そして中山が戻ってきたことで一気に層が厚くなった。左サイドバックのレギュラー争いはこれから面白くなる。