注目の大学生投手・武内(国学院大)、3球団が競合し西武が交渉権獲得 戦国東都から7投手が1位指名 ~ドラフト会議2023~
新人選手選択会議「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」が26日、都内のホテルで開催された。1巡目は国学院大左腕の武内夏暉に3球団(埼玉西武、福岡ソフトバンク、東京ヤクルト)が競合し、抽選の結果、西武が交渉権を得た。野手で注目度が高かった度会隆輝(ENEOS)にも3球団(中日、横浜DeNA、千葉ロッテ)の指名が重複。抽選の末、DeNAが交渉権を獲得した。巨人と北海道日本ハムが競合した中央大・西舘勇陽、広島と東北楽天が競合した青山学院大・常廣羽也斗は、それぞれ当たりくじを引いた巨人と広島が交渉権を得た。その他、阪神が青学大投手の下村海翔、オリックスが上田西高野手の横山聖哉を単独指名した。
外れ1位では、大阪桐蔭高サウスポーの前田悠伍に3球団(ソフトバンク、楽天、日本ハム)の指名が集まり、亜細亜大投手・草加勝には2球団(中日、ロッテ)が競合した。抽選の末、前田はソフトバンク、草加は中日が交渉権を得た。ヤクルトは専修大投手・西舘昂汰を指名。外れ外れ1位では、日本ハムと千葉ロッテが東洋大158km左腕・細野晴希を指名し、交渉権を獲得したのは日本ハム。楽天は桐蔭横浜大投手・古謝樹を指名した。3度くじを外したロッテが、最後に明治大の上田希由翔内野手を指名し、全球団が1巡目指名を終えた。
大学生投手豊作の年
17時スタートのドラフト会議、7分後に中日から1位指名選手が読み上げられていった。事前公表は4球団。公表通り中日は度会を指名し、それに横浜とロッテが続いた。父・博文氏はヤクルトでプレーした元NPB戦士。度会は横浜高時代に指名漏れを味わったが、ENEOSに入社後、昨年の都市対抗で4本塁打を放つなど優勝に貢献した。橋戸賞、打撃賞、若獅子賞を獲得し、一気にドラフト上位候補に躍り出た。
中日・立浪和義監督、横浜・三浦大輔監督、ロッテ・高坂俊介球団社長の3人がくじを引いた。次の瞬間、右手を突き上げたのは三浦監督。近くの神社にお参りに行き、験を担いだという。「シュアなバッティングで、走攻守揃っている」と評価する度会に向かって、「横浜スタジアムで待ってます!」とメッセージを送った。
次に抽選に向かったのは、日本ハム・新庄剛志監督と巨人の阿部慎之助新監督だ。最速155km右腕・西舘勇陽の交渉権を争った。くじを引いた後、胸に当てて開こうとしない新庄監督。対する阿部監督は開票後、右手でガッツポーズをつくった。見事、中大後輩の交渉権を引き当てた阿部監督は、「久しぶりにガッツポーズをしました」と笑顔を見せた。
西武が交渉権を獲得した武内には、西武とソフトバンクが事前に1位指名を公表した。これにヤクルトが加わっての三つ巴の戦い。「初めて(の抽選)なので非常にドキドキした。メチャクチャうれしい。少しホッとしている」と西武・松井稼頭央監督。即戦力と期待されるサウスポーを1/3の確率で引き当てた。
どこよりも早く1位指名を公表したのが広島で、大学ナンバーワン投手の呼び声高い常廣を選んだ。常廣には楽天も1位指名し、抽選は新井貴浩監督vs今江敏晃新監督という構図となった。「ヨッシャ!」と会場に声を響かせたのは、新井監督だった。「力で引こうと思っていた」と右手で交渉権をもぎ取った。指揮官はドラフト会場のグランドプリンスホテル新高輪から青学大の青山キャンパスへ直行。すぐに指名挨拶を行った。
「一番評価していただける球団に行きたかった。はじめに公表していただき、広島カープで野球をしたいと思っていました」と常廣。新井監督は「何年後かにはチームの核になってほしい」と期待を寄せる。伸びのあるストレートと空振りの取れるフォークを武器とする右腕は、青学大の春秋連覇、全日本大学選手権優勝に貢献。「2年後、3年後にはチームの核になれるように1年目から体力づくりをしていきたい」と意気込んだ。
常廣と青学大のWエースに君臨する下村は阪神が一本釣り。兵庫県西宮市出身の下村は「ずっと観客席で観ていた。他の人よりも(甲子園球場に)行っている回数は多いと思う。憧れは強い」球団からの指名を喜んだ。東都出身の右腕と言えば、阪神には今季ブレイクした村上頌樹がいる。下村自身も「村上さんのようなピッチャーを目指して頑張りたい」と口にする。セールスポイントに「キレのあるボールをコーナーにテンポ良く投げること」を挙げ、「戦力に少しでもなれるように」とプロでの飛躍を誓った。
そのほか、亜大・草加(中日)、専大・西舘昂汰(ヤクルト)、東洋大・細野(日本ハム)と東都からは7投手が1位指名。楽天が指名した桐蔭横浜大・古謝(楽天)も合わせれば大学生投手8人が1位指名となった。“大学生投手 豊作の年”と見ることもできるが、まだスタートラインに立ったに過ぎない。今後の活躍を期待したい。
青学大、プロ志望3名全員指名
「ホッとしています。プロ入りを見据え、実現するためにやってきましたから」と喜んだのが青学大・安藤寧則監督だ。先述した常廣と下村に加え、キャプテンの中島大輔が楽天に6位指名され、プロ志望届を提出した全員の教え子がドラフト指名を受けた。
「ただプロに入るだけが目的じゃない。その後のことも考えながら、この3人だったらということで、プロ志望届の提出をOKしたようなところもありますから」
青学大からのドラフト指名(OBは除く)は15年の吉田正尚(オリックス1位)以来。同一年度における複数1位指名は96年の沢崎俊和(広島)、清水将海(ロッテ)、井口忠仁(ダイエー)の3人以来、27年ぶりとなった。「(2人が1位指名と)高い評価をしていただいた。勝利に貢献するだけでなく、野球界の発展に繋がるような野球選手になって欲しい」と安藤監督。19年に監督就任し、1年時から見てきた選手たちにエールを送った。
青学大のWエースは高校時代、甲子園に出場していない。侍ジャパン大学代表に揃って選ばれるなど、この4年間で大きく名を上げた。大分舞鶴高から指定校推薦で入学した常廣は青学大を選んだ理由に、「ほかの大学と比べて少数精鋭。よりコーチの指導を受けられると思い、試合にも出やすいと考えました」という点を挙げた。その思惑通り、常廣は2年時から出場機会を得て、3年時には主戦投手を任されるまでになった。
「中野(真博)コーチの指導のおかげ。基本的に選手が自分で考えられるアプローチをされる。困った時は手を差し伸べてヒントをくださり、この4年間成長することができた」
指導した中野コーチは、こう振り返る。
「試合に負けた時、彼のせいだけでなくても、煽るようなことをしました。最後はガムシャラさが必要。殻を破らせるために、たくさん走らせたこともありました」
伸びのあるストレートは、地道に積み重ねてきた鍛錬の結晶である。精神面でも逞しさが増したという。
一方、中野コーチが「手がかからなかった」と評するのが、九州国際大付出身の下村だ。1年秋から公式戦のマウンドに上がった。だが下村は右肘の手術、リハビリのため、2年時にの登板機会はなかった。「下山は目標に突き進めるタイプ。こちらから煽るようなことはしなかったです」と中野コーチ。リハビリ期間の身体づくりが、球速アップに繋がった。
常廣と下村--。2人は切磋琢磨し、ドラフト1位候補にまで成長してきた。
「下級生の頃は下村が投げていた。ずっと目標で、ライバルだった」(常廣)
「常廣がいたから、ここまで頑張れた。“常廣に負けたくない”と思って、練習をしていた時期もあった」(下山)
安藤監督によれば、「自然と競争になっていた」という。「こちらは見極めて起用していくだけ。あとは選手それぞれが解釈をし、“次こそは”と頑張ったのが今のかたち」。互いの存在が研ぎ石となり、原石は磨かれていった。
ライバルはチーム内だけにあらず、東都で揉まれたことで二枚看板は磨き上げられたと言っていいだろう。「僕の中では最高のリーグだと思っています。入れ替え戦があり、切磋琢磨できる環境。いいバッターがいい投手を育て、いいピッチャーがいい打者を育てている」と安藤監督。プロのステージでも凌ぎを削り合う。「東都でやっていた戦いをプロの舞台でもできるように」と常廣が口にすれば、下村は「常廣だけじゃなく他大学のピッチャーたちからも刺激をもらってきた。切磋琢磨して成長してきたので、プロの世界でも投げ合えるように頑張りたい。今は全員同じスタートライン」と闘志を燃やす。
(文・写真/杉浦泰介)
各球団の指名選手は以下のとおり。
◎パ・リーグ
◆オリックス
1位 横内聖哉 上田西高 内野手
2位 河内康介 聖カタリナ学園高 投手
3位 東松快征 享栄高 投手
4位 堀柊那 報徳学園高 捕手
5位 高島泰都 王子 投手
6位 古田島成龍 日本通運 投手
7位 権田琉成 TDK 投手
育成1位 寿賀弘都 英明高 投手
育成2位 大江海透 北九州下関フェニックス(九州アジアリーグ) 投手
育成3位 宮國凌空 東邦高 投手
育成4位 芦田丈飛 埼玉ヒートベアーズ 投手
育成5位 河野聡太 愛媛マンダリンパイレーツ 内野手
◆千葉ロッテ
1位 上田希由翔 明治大 内野手
2位 大谷輝龍 富山GRNサンダーバーズ(日本海リーグ) 投手
3位 木村優人 霞ヶ浦高 投手
4位 早坂響 幕張総合高 投手
5位 寺地隆成 明徳義塾高 捕手
育成1位 武内涼太 星稜高 投手
育成2位 松石信八 藤蔭高 投手
育成3位 高野光海 富山GRNサンダーバーズ(日本海リーグ) 外野手
育成4位 藤田和樹 延岡学園高 投手
育成5位 富山紘之進 会津北嶺高 捕手
◆福岡ソフトバンク
1位 前田悠伍 大阪桐蔭高 投手
2位 岩井俊介 名城大 投手
3位 廣瀬隆太 慶応大 内野手
4位 村田賢一 明治大 投手
5位 澤柳亮太郎 ロキテクノ富山 投手
6位 大山凌 東日本国際大 投手
7位 藤田悠太郎 福岡大大濠高 捕手
育成1位 大泉周也 福島レッドホープス 外野手
育成2位 宮里優吾 東京農業大 投手
育成3位 佐倉侠史朗 九州国際大付高 内野手
育成4位 中澤恒貴 八戸学院光星高 内野手
育成5位 星野恒太朗 駒澤大 投手
育成6位 藤原大翔 飯塚高 投手
育成7位 藤田淳平 徳島インディゴソックス 投手
育成8位 長水啓眞 京都国際高 投手
◆東北楽天
1位 古謝樹 桐蔭横浜大 投手
2位 坂井陽翔 滝川第二高 投手
3位 日當直喜 東海大菅生高 投手
4位 ワォーターズ 璃海 ジュミル 沖縄・日本ウェルネス高 内野手
5位 松田啄磨 大阪産業大 投手
6位 中島大輔 青山学院大 外野手
7位 大内誠弥 宮城・日本ウェルネス高 投手
8位 青野拓海 氷見高 投手
◆埼玉西武
1位 武内夏暉 国学院大 投手
2位 上田大河 大阪商業大 投手
3位 杉山遙希 横浜高 投手
4位 成田晴風 弘前工高 投手
5位 宮澤太成 徳島インディゴソックス 投手
6位 村田怜音 皇学館大 内野手
7位 糸川亮太 ENEOS 投手
育成1位 シンクレア ジョセフ 孝ノ助 徳島インディゴソックス 投手
育成2位 谷口朝陽 徳島インディゴソックス 投手
育成3位 川下将勲 函館大有斗高 投手
育成4位 金子功児 埼玉ヒートベアーズ 内野手
育成5位 木瀬翔太 北嵯峨高 投手
育成6位 奥村光一 群馬ダイヤモンドペガサス 外野手
◆北海道日本ハム
1位 細野晴希 東洋大 投手
2位 進藤勇也 上武大 捕手
3位 宮崎一樹 山梨学院大 外野手
4位 明瀬諒介 鹿児島城西高 内野手
5位 星野ひので 前橋工高 外野手
育成1位 浜田泰希 京都国際高 外野手
育成2位 平田大樹 瀬田工高 外野手
育成3位 加藤大和 帝京大可児高 投手
◎セ・リーグ
◆阪神
1位 下村海翔 青山学院大 投手
2位 椎葉剛 徳島インディゴソックス 投手
3位 山田脩也 仙台育英高 内野手
4位 百崎蒼生 海大熊本星翔高 内野手
5位 石黒佑弥 JR西日本 投手
6位 津田淳哉 大阪経済大 投手
育成1位 松原快 富山GRNサンダーバーズ(日本海リーグ) 投手
育成2位 福島圭音 白鴎大 外野手
◆広島
1位 常廣羽也斗 青山学院大 投手
2位 高太一 大阪商業大 投手
3位 滝田一希 星槎道都大 投手
4位 仲田侑仁 沖縄尚学高 内野手
5位 赤塚健利 中京学院大 投手
育成1位 杉田健 日本大国際関係学部 投手
育成2位 佐藤啓介 静岡大 内野手
育成3位 杉原望来 京都国際高 投手
◆横浜DeNA
1位 度会隆輝 ENEOS 外野手
2位 松本凌人 名城大 投手
3位 武田陸玖 山形中央高 投手
4位 石上泰輝 東洋大 内野手
5位 石田裕太郎 中央大 投手
6位 井上絢登 徳島インディゴソックス 外野手
育成1位 高見澤郁魅 敦賀気比高 内野手
育成2位 清水麻成 樹徳高 投手
育成3位 小笠原蒼 京都翔英高 内野手
育成4位 庄司陽斗 青森大 投手
育成5位 近藤大雅 専大北上高 捕手
◆巨人
1位 西舘勇陽 中央大 投手
2位 森田駿哉 Honda鈴鹿 投手
3位 佐々木俊輔 日立製作所 外野手
4位 泉口友汰 NTT西日本 内野手
5位 又木 鉄平 日本生命 投手
育成1位 三浦克也 東京国際大 投手
育成2位 村山源 鹿屋中央高 内野手
育成3位 宇都宮葵星 愛媛マンダリンパイレーツ 内野手
育成4位 田上優弥 日大藤沢高 内野手
育成5位 園田純規 福岡工大城東高 投手
育成6位 千葉隆広 旭川明成高 投手
育成7位 平山功太 千葉スカイセイラーズ(ベイサイドリーグ) 外野手
◆東京ヤクルト
1位 西舘昂汰 専修大 投手
2位 松本健吾 トヨタ自動車 投手
3位 石原勇輝 明治大 投手
4位 鈴木叶 常葉大菊川高 捕手
5位 伊藤琉偉 新潟アルビレックスベースボールクラブ 内野手
育成1位 高橋翔聖 鶯歌工商高(台湾) 投手
育成2位 高野颯太 三刀屋高 内野手
◆中日
1位 草加勝 亜細亜大 投手
2位 津田啓史 三菱重工East 内野手
3位 辻本倫太郎 仙台大 内野手
4位 福田幸之介 履正社 投手
5位 土生翔太 茨城アストロプラネッツ 投手
6位 加藤竜馬 東邦ガス 投手
育成1位 日渡騰輝 茨城アストロプラネッツ 捕手
育成2位 菊田翔友 愛媛マンダリンパイレーツ 投手
育成3位 尾田剛樹 BCリーグ・栃木 外野手
育成4位 川上理偉 大分B-リングスB(九州アジアリーグ) 外野手