初めて“プレーオフ”なるものを観戦したのは、いまから11年前、ロンドン五輪開幕を控えた英国だった。

 

 聞いたことのないチームと、聞いたことのないチームによる、およそハイレベルな内容が期待し難い一戦。それでも、会場のウェンブリーは満員近い観衆で埋まり、タイアップの瞬間は、W杯決勝に負けないくらいに感動的だった。この年からはJリーグでも同様のシステムが始まることが決まっており、日本サッカーに新たな風物詩が生まれるのでは、と期待した記憶がある。

 

 今年、6年ぶりに開催されるJ1昇格プレーオフの決勝は、東京V対清水という顔ぶれに決まった。プレーオフ史上初となる、いわゆる“オリジナル10”同士による決勝戦である。J2第29節に1万7802人を集めたカードが、より大きなものを賭けた状況で行われるとなれば、より多くの観客を惹きつけるのは確実。プレーオフ史上に残る一戦となることを期待したい。

 

 それにしても、ヴェルディ対エスパルスといえば、Jリーグ創成期屈指の黄金カード。その両チームがJ1の優勝争いではなく、昇格をかけて戦う日が来ようなど、当時のわたしは夢にも思わなかった。

 

 ただ、その程度の「夢にも思わなかった」では済まないことが、いま南米で起きている。第1回W杯から出場し続けている世界唯一の国、ブラジルの大失速である。

 

 ボリビア、ペルーに連勝して迎えたベネズエラ戦が躓きの始まりだった。南米サッカー連盟に加入している10カ国のうち、唯一W杯出場経験のないアウトサイダーに終了直前のゴールで追いつかれると、続く敵地でのウルグアイ戦には0対2と完敗。第5節のコロンビア戦では先制しながらの逆転負けを喫し、マラカナンに宿敵アルゼンチンを迎えた一戦では、オタメンディの一発に沈んでしまう。

 

 長いブラジルのサッカー史において、W杯予選のホームで負けたことは一度もなかった。それが、よりにもよってアルゼンチン相手に起きてしまった。ウルグアイ、コロンビアに連敗したこと、ベネズエラ戦から数えれば3戦続けて勝てていなかったことで、これ以上はないと思われるほど高まっていたファンの怒りは、あっさりと沸点を更新した。

 

 サッカーが普遍化し、カナリアといえどもW杯で優勝するのは簡単ではない時代になったことは、ブラジル人もよくわかっている。ただ、W杯に出場することを危ぶむブラジル人はいなかった。彼らにとって、南米予選を苦もなく勝ち抜くことは、太陽が東から昇り西に沈むのと同じくらい、ごくごく当たり前の常識だった。

 

 もちろん、予選はまだまだ長い。ここからの巻き返しは十分に可能だし、巻き返すだろうとはわたしは思う。だが、少なくともアルゼンチン人にとって、マラカナンでのブラジル戦は畏怖、恐怖の対象ではなくなった。今予選の結果如何を問わず、歴史は動いてしまった。

 

 ご存じの通り、今大会からW杯本大会は出場国が大幅に増加する。FIFAが下したこの決定に対し、冷笑的な反応を見せていたのがブラジルやドイツといった伝統国、強豪国だった。

 

 第6節を修了した時点で、ブラジルの順位は6位。これは、カタールならば出場できなかったが、今回のW杯なら大丈夫という順位である。

 

 サッカーには、スポーツには夢がある。そして、「夢にも思わなかったこと」も、時に起こりうる。

 

<この原稿は23年11月30日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>


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