ブレイブルーパス、“ビッグネーム獲得効果”とユニークな大会創設によるレガシー ~リーグワン~
「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」(リーグワン)
オールブラックスの選手はニュージーランド協会と契約を結ぶため、サバティカルという制度を利用し、1年国外でプレーするケースがほとんどだ。だが彼らはこれに該当しない。11月21日に行われた記者会見でのモウンガの言葉には、彼の強い決意が滲んでいた。
「サバティカル(休暇)という言い方は好きではない。自分にとって休養ではないし、1シーズンだけのものでもない。全ての覚悟を持って、このクラブでプレーしたい」
オールブラックスの司令塔を務めた男の実力はいかに――。会見から4日後、25日に行われた昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイとプレシーズンマッチ。早速、モウンガは魅せた。ハイボールキャッチからのスムーズなランプレー。ボールに対する反応の速さ。正確なプレースキック。前半でお役御免となったが、スキルの高さを存分に発揮した。
この日はフリゼルも後半から登場し、1トライを挙げた。馬力のあるボールキャリーは、ブレイブルーパスの武器となるだろう。新戦力が才能の片鱗を見せつけ、昨季リーグ王者を50-28で下した。
ビッグネーム獲得の効果はチーム強化だけにとどまらない。
「昨シーズンのプレーシーズンマッチの平均観客数は約800人。それが今シーズンは10月14日が約1300人、(モウンガとフリゼルのデビュー戦となった)25日が有料自由席は完売し、約1500人集まりました。ファンクラブの会員数も既に昨季に近い数字になっています」
ニュージーランドに限らず訪日客のためにツアーを組む案も計画しているという。集客やセールスプロモーションにも繋がっていると言っていいだろいう。
モウンガ、フリゼルとは複数年契約を交わしたと言われており、チームとしては、その間にレガシーを残して欲しいという思いもあるようだ。「ウチは若い選手が多いチーム。世界トップクラスの選手が複数年いることで、彼らの成長を促すことも期待しています」と荒岡社長。モウンガも「自分にできる全てを提供したい」と語っている。
一方で、ワールドクラスの選手が複数年在籍することは、同じポジションの選手をリクルートする障壁にはならないのか。採用担当を兼ねる事業運営部の望月雄太氏が、この夏に菅平合宿を訪ねた際の印象はこうだ。
「学生からは『モウンガのパスを受けてみたい』『一緒にプレーしたら自分が生きるんじゃないか』というポジティブな反応ばかりでした」
ブレイブルーパスが定期的に開催するスクール、“ルーパス塾”に参加する子どもたちの反応も望月氏によれば良好だという。
「スーパースターと同じグラウンドでプレーできるのは夢がありますよね。彼らのプレーを子どもたちが“すごい”と感動し、“真似したい”と思ってくれればうれしいですね」
① 作戦、プレーの選択はコーチではなく子供達で決める(尊重)
② 大人は子供達のプレーを褒める(情熱)
③ 毎試合後に対戦相手と感想戦を行う(品位)
④ 対戦した相手とチームを組みミックス戦を行う(結束)
⑤ 最後に参加者全員で「挨拶とルーパス締め」を行う(規律)
ルーパスカップの企画・発案者である望月氏は、「コロナで大会がなくなってしまった子どもたちに試合をする場を創出したかった」と大会創設の理由を語った。
「平日もラグビーをやりたいという子どもたちのためにルーパス塾を始めましたが、そのトレーニングの成果を発揮する機会がルーパスカップ。私の性格上、他の大会と同じものにはしたくなかった。ラグビー界の繋がりって非常に濃い。その繋がりをこのグラウンドからスタートしたかったんたです」
対戦相手との感想戦とミックス戦が、ユニークな試みだろう。25日の大会期間中、感想戦を行う一団に、望月氏は「良かったことを話そう」と声を掛けていた。その真意とは?
「できなかったことに目を向けがちですが、できたことにフォーカスして欲しい。それを継続し、より良くするために何をすべきか考えることが大事だと思うんです。できなかったことにフォーカスするのはその後でいいんです」
ミックス戦のメリットは強化部のアカデミー担当・梅田紘一氏がこう説明する。
「高校日本代表やアンダー世代の代表はコンバインド(混成)チームを組みます。そこでリーダーシップを取れるかどうかは選考にも影響してくる。それはラグビーに限らず、一般の仕事でも大事なことです。“はじめまして”の環境でも、自分を出しつつ、周りを引き出す力が必要になってきます」
梅田氏はルーパス塾の指導のほか、日本ラグビーフットボール協会でセブンズ(7人制)のユースアカデミー指導も担当する育成の専門家である。
今年の第4回大会は、梅田氏が運営のメインを任された。第3回までは6つのルールを基にしていたが、今回は5つにブラッシュアップしたという。
「去年の感想戦は、我々運営側がファシリテーター(進行役)を付けていましたが、今回は各チームのコーチに任せています。なぜかというと、それは子どもたちだけでなくコーチの皆さんにとっても成長の場として欲しかったからです。普段、接している方たちに子どもたちの意見を引き出してもらうことのほうが大事だと感じました」
レガシーはスーパースターやビッグイベントだけが残していくものではない。ルーパスカップ、ルーパス塾のような普及・育成事業も後世に受け継ぐべきリソースなのではないか。「ここから世界に羽ばたいていけるような人材が育成できればうれしい」と梅田氏。いずれはルーパスカップ、ルーパス塾出身者がブレイブルーパスに入団する。そんなストーリーも描ければ理想だろう。
(文・写真/杉浦泰介)