日本人選手の新人としては新記録となる9試合連続安打をマークした岩村明憲選手(デビルレイズ)。20日(現地時間)のヤンキース戦でメジャー初のセーブポイントを挙げた岡島秀樹投手(レッドソックス)。こうした日本人選手の活躍ぶりを耳にするのは、同じ野球人として本当に嬉しいものです。
 さて、先発ローテーションのメンバーに入り、奮闘しているのが松坂大輔投手(レッドソックス)と井川慶投手(ヤンキース)。どちらもデビュー戦ではなかなか本来のピッチングができずに苦しみました。その原因はメジャー特有のボールとマウンドにあります。牛皮でつくられている日本のボールに対して、メジャーのボールは馬皮でつくられ、非常に滑りやすくなっています。2人ともキャンプやオープン戦で十分に慣らしてきたとは思いますが、公式戦に入って改めてボールの感触の違いを実感したのではないでしょうか。というのも、比較的古いボールが使用されるシーズン前とは違い、公式戦では真新しいボールが使用されます。そのため、より滑りやすくなっているのです。

 一方、マウンドはというと、日本に比べて硬くつくられています。日本のマウンドでは、普通ピッチングのときに、右ピッチャーなら踏み込んだ軸足の左足が3塁方向から1塁方向へ、左ピッチャーなら右足が1塁方向から3塁方向へとスライドします。ところが、メジャーでは踏み込んだ足のスパイクの刃が突き刺さってしまい、この動作をスムーズに行うことができません。そのため、軸足に体重が乗り切らず、後ろ足も十分に蹴り込むことができない。そうすると、リリースポイントが早くなり、変化球が抜けてコントロールが定まりにくくなります。デビュー戦の二人はまさに、この状態でしたね。

 試合を重ねていくうちに、ボールにもマウンドにも徐々に慣れ、本来のピッチングを取り戻しつつあるようです。特に、井川投手は早くメジャーのマウンドに慣れようと一生懸命に研究しているように感じられます。彼は低い体勢のまま腕を最後まで振り降ろすことができます。これが本来のフォームです。メジャーの硬いマウンドでは、これがままならなかったのですが、試合の度によくなってきています。

 一方の松坂投手は、まだマウンドを自分のものにはできていないようです。特にセットアップになると、制球が定まらなくなるのは、おそらくこうしたマウンドの不慣れによるものだと考えられます。硬いマウンドに対しては、ステップ幅を狭めたり、マウンドをよくなれさせ、踏み込みの位置を自分のいいように掘って調整することで対応していくしかありません。ただ、彼はもともとコントロールがずば抜けていいピッチャーですから、それほど不安視する必要はないでしょう。各スタジアムをひと回りすれば、適応していけると思います。

 さて、二人の今後の課題ですが、まず井川投手は、インサイドのボールです。メジャーはインサイドの判定が厳しく、なかなかストライクをとってくれません。そのため、バッターもインサイドへの意識は薄く、平気で見逃したりします。その逆でアウトサイドへの意識は高く、踏み込みが大きい。

 登板2試合目のアスレチックス戦、井川投手は前半はインサイドの厳しいコースに勝負をしにいっていましたが、これが後半には薄れた感があります。これではバッターは思いっきり踏み込むことができ、好きにやられてしまいます。なかなかストライクをとってもらえなくても、インサイドへのボールでカウントをとりにいく姿勢を貫くことで、バッターへの脳裏に焼きつけさせることが重要です。そうすれば、体が無意識に反応して腰が引け、踏み込みを鈍くさせることができるのです。

 松坂投手の課題は球数です。日本にいたときよりも、順調に減らせてはいますが、2−2、2−3のカウントがまだまだ多いような気がします。メジャーのバッターは1−3、0−3からでも打ちにきますから、ピッチャーとしては勝負しやすい。ですから、早いカウントからもっと積極的に仕掛けていけば、さらに球数を減らせるでしょう。

 24日現在、松坂投手は4試合で2勝2敗、井川投手は4試合で1勝1敗とまずまずの成績を挙げています。しかし、今後夏に向けてメジャーのバッターは振りがより鋭くなり、好投しても打たれてしまうようなケースも出てくるでしょう。そんな時、特にルーキーは自信をなくし、自分を見失いがちですが、それではますます調子を落とすばかりです。もちろん反省することは必要ですが、ズルズルと気持ちをひきずらずに、早めに切り換えることが何より重要です。

 ただ、松坂投手も井川投手もメンタルの部分では全く心配はありません。マウンド上や試合後の二人の様子を見ていても、結果にかかわらず、ルーキーとは思えないほど堂々としています。きっと、今後も二人の活躍した姿を見ることができると思います。 



佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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