二宮清純: 日本女子プロサッカーリーグのWEリーグがスタートして、3季目を迎えました。髙田さんは昨年9月、2代目チェアに就任しました。ここまでの手応えは?

髙田春奈: まだ手応えと言えるほど目に見える成果は出せていません。ただ実感としては、今季から新しい取り組みをいろいろと始めることができ、リーグの観客数も増えてきている。このまま自分たちが信じてきたことの足固めを続けていけばいいかな、と感じています。

 

二宮: 就任後はリーグとしての理念を共有する作業から始めたようですね。

髙田: そうですね。元々、私は人事からキャリアをスタートさせ、企業のビジョンをつくることに取り組んできたので、そこは自分の得意分野です。逆にサッカーという競技の部分は経験者でなければ専門家でもない。こちらは得意な方に任せるなど、役割分担をしています。

 

二宮: リーフラスでは女子サッカーについて、どのような取り組みを?

伊藤清隆: 過去になでしこリーグの福岡J・アンクラスと業務提携をし、女子サッカーの普及を図るため、アンクラスの選手を弊社で雇用しました。業務は子どもたちにサッカーを教えること。その当時と比べても女子サッカーの認知度は上がっていると感じます。

 

二宮: 髙田さんはWEリーグチェア就任前の2020年からの2年間、Jリーグ・Vファーレン長崎の代表取締役社長としてクラブ経営に携わってきました。クラブとリーグの共通点は?

髙田: 組織として利益を求めることは同じです。リーグは公益法人であるものの、自らが運営資金を集めないことには、持続することはできません。どうやって稼ぐかを考える点では共通しています。ただ何を売るかがクラブとリーグでは違います。クラブの場合は、試合の勝ち負けがあり、それが売り上げに影響を及ぼします。ホームタウンとの結び付きを深め、パートナーシップを増やしていくことも重要。一方、リーグは女子サッカーや各クラブが好きというだけで支援をしていただけるわけではありません。私たちが目指すビジョンを論理的に説明し、理解していただくことが必要となります。似ているところはありますが、アプローチの仕方は若干、異なると感じています。

 

二宮: リーグは公益性が求められますね。

髙田: はい。WEリーグは良く悪くも理念先行型と言われています。名前もWomen's Empowermentですから、「社会を変える」という意気込みでやっている。その価値観を共有し、伝えていくことを重視しています。

 

二宮: 私は理念先行型でいいと思うんです。Jリーグは地域密着の理念を掲げ、スタートしました。最初は「理念先行型じゃないか。お題目だけ唱えるな」と言われたものです。しかし理念がなければ何も始まらない。利益追求だけであれば民間企業でもいいわけですから。

髙田: そうですね。WEリーグに関して言えば、女性ということにアレルギーを示される方もいらっしゃいます。ただ女子サッカーは女性がやっているスポーツである以上、女性の社会問題から切り離すことはできません。「理念ばかり追い求めていないで、サッカーに集中しなさい」という声があるのも事実です。女子サッカーを輝かせることによって、女性の地位向上につなげていきたい。スポーツ事業と社会事業の両輪を回していくことで、理念先行型に反対する声に対し、答えを示していきたいと考えています。

 

二宮: リーフラスは民間企業ですが、スポーツスクール事業を通じ、スポーツ界全体を変えようと尽力しています。その点ではWEリーグと共通点があるのでは?

伊藤: そうですね。弊社も社会課題解決をミッションとしています。部活動の地域移行。簡単に言えば、民営化ということです。我々が部活動を受け持つことで、学校の先生たちの負担を減らし、より良い教育環境をつくる。そうすることで学校教育の課題を少しでもクリアしていきたい。女子サッカーで弊社のスクールに参加しているのは約2000人。女子がサッカーをする機会が日本はまだ少ない。そこも社会課題のひとつとしてとらえ、取り組んでいます。別団体ではありますが神奈川を中心に、『なでしこサッカークラブ』という2歳から12歳の女子のみのサッカークラブがあり、現在41クラブ、会員数950名、指導者9名で女子サッカーの普及を頑張っていますよ。

 

 部活動の働き方改革

 

二宮: 女性指導者の採用比率はいかがでしょう?

伊藤: 女子サッカースクールの指導者はほとんど女性です。なでしこリーグ経験者が中心です。バスケットボールなどサッカー以外の競技も女性指導者が増えてきています。スクールでは、男性だけが教えるよりも女性も入ったほうが指導の幅が広がる。ひとりで見るよりふたり、ふたりで見るより3人と、複合的な視点も必要になってくると思います。そこから、それぞれの子どもたちに合った指導者を見つけ、マッチングしていくことが大切だと思っています。

 

二宮: 子ども側の選択肢を増やすことが大切だということですね。かつて、スポーツ界ではパワハラ的な指導が蔓延していました。リーフラスを伊藤さんが起業したのもご自身の学生時代の経験に依るものだと?

伊藤: 私は“子どもたちにとって、楽しいと思えるスポーツ教室をつくろう!”と決意し、2001年に創業しました。当時は子どものスポーツでも体罰、暴言などが根強く残っていました。私自身、中学校の部活動で野球が嫌いになった。また親戚の子どもが体罰や暴言を受けている現場を目撃してしまったこともある。さらに問題だったのは、例えば野球の競技経験のない先生が顧問を任されていたことで、子どもが満足な指導を受けられなかった。部活動の地域移行によって、子どもたちが専門的な指導者に出会うこともできるでしょうし、指導者の待遇や教育現場の環境改善にもつながると期待しています。

 

髙田: スポーツの世界では、スタッフの待遇が恵まれていないケースもあります。教員の働き方改革ですね。指導者がきちんとした報酬を得られ、子どもたちはいい指導を享受できる環境づくり。みんながハッピーになる活動をされているのは、素晴らしいことですね。

伊藤: ありがとうございます。サッカーは弊社のスクール事業でも人気の高い競技です。なでしこジャパン、WEリーグの選手が活躍すると、女子サッカースクールへの入会希望者は増えますね。

 

二宮: 少子化による部員数の減少で、一部の学校では合同チームを組んで大会に臨んでいます。競技人口は野球が減少傾向にあると聞きますが、サッカーはどうでしょう?

伊藤: 弊社で言えばサッカーは増えています。なぜかというと、通常のサッカースクールとは別に発達障がいのある子どもに対し、サッカー療育を実施しているからです。弊社が実施している「放課後等デイサービス『LEIF』」では、子どもたちを叱らず、褒めて、認めて、励まして楽しくサッカーに取り組んでもらっています。自分で考え、行動することが、脳の活性化につながり、障がいが緩和されていくからです。家族の方にも大変喜んでいただき、全国約15カ所に展開しています。

 

二宮: パラスポーツにおいては、ブラインドサッカー(視覚障がい)、CPサッカー(脳性まひ)、電動車椅子サッカーなど障がいに応じたカテゴリーがあります。

髙田: そうですね。私が女子サッカーに関わるようになって感じるのは、“あんなことをやりたい”“こんなことをやりたい”ということに対し、温かく受け入れてくださることです。

 

二宮: 現在、女子サッカーでも日本代表(なでしこジャパン)の主力選手の多くが海外クラブに所属しています。海外を目指す選手が増え、優れた外国人選手が海外リーグから入団するという循環型のリーグになることは望ましいと思いますが、いかがでしょうか?

髙田: 海外ではヨーロッパを中心に女子サッカーが盛り上がってきています。例えばスペインは欧州チャンピオンズリーグでの国内チーム同士が対戦し、9万人もの観客を集めました。イングランドではユーロ(欧州選手権)を制したことで、イングランド協会がプロモーションに力を入れ、さらに発展していると聞きます。しかし日本では、試合で数万人を超える観客を呼ぶことや、自国協会をあげての取り組みまでは至っていないのが実情です。今年のW杯では、なでしこジャパンが優勝国のスペインを破りました。このように日本の女子サッカーのレベルは非常に高い。私は世界的市場の一角に日本が入っていくだけのポテンシャルは十分にあると思っています。そのためにもWEリーグを、より魅力のあるリーグに発展させていきたいものです。

 

髙田春奈(たかた・はるな)プロフィール>

1977年、長崎県出身。国際基督教大学を卒業後、ソニーで4年半勤務し、2005年独立。2018年JクラブのⅤ・ファーレン長崎の上席執行役員に就任した。2020年、同クラブの代表取締役社長就任。2022年3月Jリーグ常勤理事、JFA理事に就任。Jリーグでは社会連携他、複数の部門を担当した。同年9月にWEリーグの2代目チェアに就任。なでしこリーグ理事長、Jリーグ特任理事とJFA副会長も務める。現在は東京大学大学院教育学研究科博士課程に在籍し、教育思想の研究を継続している。

 

 

伊藤清隆(いとう・きよたか)プロフィール>

1963年、愛知県出身。琉球大学教育学部卒。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、代表取締役に就任(現職)。創業時より、スポーツ指導にありがちな体罰や暴言、非科学的指導など、所謂「スポーツ根性主義」を否定。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導と部活動改革の重要性を提唱。子ども向けスポーツスクール会員数と部活動支援事業受託数(累計)は、国内No.1(※1)の実績を誇る(2022年12月現在)。社外活動として、スポーツ産業推進協議会代表者、経済産業省 地域×スポーツクラブ産業研究会委員、日本民間教育協議会正会員、教育立国推進協議会発起人、一般社団法人日本経済団体連合会 教育・大学改革推進委員ほか。

 

 

二宮清純(にのみや・せいじゅん)プロフィール>

1960年、愛媛県出身。明治大学大学院博士前期課程修了。同後期課程単位取得。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員。認定NPO法人健康都市活動支援機構理事。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『勝者の思考法』(PHP新書)『プロ野球“衝撃の昭和史”』(文春新書)『変われない組織は亡びる』(河野太郎議員との共著・祥伝社新書)『歩を「と金」に変える人材活用術』(羽生善治氏との共著・廣済堂出版)など著書多数。新刊『森保一の決める技法』(幻冬舎新書)が発売中。

 

※1
*スポーツスクール 会員数 国内No.1
・スポーツ施設を保有しない子ども向けスポーツスクール企業売上高上位3社の会員数で比較
・会員数の定義として、会員が同種目・異種目に関わらず、複数のスクールに通う場合はスクール数と同数とする。
*部活動支援受託校数(累計) 国内No.1
・部活動支援を行っている企業売上高上位2社において、の部活動支援を開始してからこれまでの累計受託校数で比較
・年度が変わって契約を更新した場合は、同校でも年度ごとに1校とする。
株式会社 東京商工リサーチ調べ(2022年12月時点)


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