26~27年シーズンから、Jリーグが秋春制に移行することが決まった。長く移行を訴えてきた人間の一人として、今回の決定を歓迎したい。

 

 なぜサッカーが生まれた欧州では、秋に開幕し、春に終幕を迎える日程が取られてきたか。一番の理由は、その流れで社会が動いてきた、ということだろう。学校が始まるのは秋。街に初々しい新社会人の姿が目立つのも秋。初夏を迎える頃に一つの区切りを迎え、長い夏季休暇に入るというのが、何世紀も続く欧州の生活リズムとして定着している。

 

 ただ、地球の温暖化が進み、欧州でさえエアコンのない夏が考えにくくなってきた現在、サッカーにとってのこの日程は、より理に適ったものとなりつつある。一人の選手が1試合で10キロ以上を走ることが珍しくない競技では、暑さは間違いなく試合の質を蝕むからだ。

 

 すでに30度を超えない日の方が珍しくなった日本の夏には、そこに湿度というもう一つの悪条件が加わる。試合中に給水タイムをはさまなければ選手の健康が懸念されるような状態で、ファンを満足させるレベルの試合を安定して提供するのは簡単なことではない。

 

 さらに、これからシーズンが盛り上がろうという中盤から終盤にかけて、主力選手が欧州に抜かれていくという問題もあった。国中にカネがあふれていた時代には、それでも欧州や南米から選手を引き抜くことも可能だったが、いまでは、ほとんどのチームが開幕時より戦力を落としてゴールにたどりつく。三笘のいたフロンターレと、いなくなったフロンターレが同じであるはずがない。

 

 シーズンの時期を動かすことによって、すべてではないにせよ、こうした問題は改善の方向に向かうことが考えられる。ゆえに、わたしは秋春制を支持してきた。

 だが、この制度に反対する声が根強いのもよくわかる。

 

 1月の平均気温が氷点下を下回るミュンヘンだが、同じ月の平均降雪量は30センチ。一方、札幌や新潟では50センチを超える。そして、冬のブンデスリーガで試合が中止になる場合、理由の多くが大雪なのである。

 

 芝の下、あるいはスタンドの屋根などにヒーターを設置することによって、ブンデスリーガのスタジアムは冬でもプレーしやすく、観客にとっても以前に比べれば快適な環境が用意されるようになった。だが、そんなドイツでさえ、交通をマヒさせる大雪には抗(あらが)いきれないことがある。たとえスタジアムにはサッカーができる環境が準備されていたとしても、ファンが、あるいは対戦相手がそこまでたどりつけなければ、どうしようもない。

 

 ちなみに、ネットで「世界10大降雪地」を検索してみると、アルプス山脈、ロッキー山脈、シベリア、北極などに続き、北日本が8位にランクされている。いわゆる都市圏で北日本より降雪量が多いのは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの3カ国しかない。そして、スウェーデンの国内リーグ、アルスヴェンスカンは、4月開幕、11月終了という日程で行われている。

 

 Jリーグ側は、寒冷地、降雪地のクラブに対する支援も考えているようだが、一競技団体にできることには限界がある。新日程を定着させるためには、地方自治体や国にも絡んできてもらわなければならない。現時点で、そうした情報がほとんど聞こえてこないのが、気がかりといえば気がかりだ。

 

<この原稿は23年12月22日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>


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