1995年に野茂英雄選手がメジャーリーグへの道を切り開いた後、さらなる上のレベルを目指す日本人選手が米国へ流出。イチロー、松井秀喜、松坂大輔といった日本を代表するスタープレーヤーのメジャー移籍による日本野球界の空洞化も懸念されている。
 日本のプロ野球界が今後進むべき方向について二宮清純、坂井保之(プロ野球経営評論家)、牛込惟浩(メジャーリーグ・アナリスト)が語った。(今回はVol.4)
牛込: かつてプエルトリコは、フリーエージェントだったので、誰でも獲れました。ところが数年前に、米国メジャーによる国際ドラフトの対象に盛り込まれた。日本の野球界だってうかうかしていると、米国メジャーのドラフト対象になっちゃいますよ。
二宮: メジャー側が勝手に決めて、「獲る」と言ってしまったら、どうしようもない。それで、指名された日本人選手が「行く」と言ったら、誰も止められない。そうならないためにも、いま一度実効性のあるアグリーメントを作り、一定の歯止めをかけるべき。なし崩しが一番よくない。

牛込: ドラフトに「希望枠」という制度を設けている限りは「どうぞ持っていってください」と言っているのと同じですからね。
二宮: バスケットボールでは、そういう前例がある。岡山恭崇という2メートル30センチぐらいの日本人選手がいて、米国NBAのチームが8巡目で指名している。

牛込: 結果的に、日本のプロ野球は「メジャーのマイナーリーグ」になるんだと思いますね。
二宮: メジャーは、球団数を増やしたので選手が足りない。それで、カリブ諸国や東アジアへと膨張してきた。そうなると、アメリカ以外の野球リーグは、メジャーにおけるマイナーリーグと同じ位置付けになってしまう。これを、私は「メジャーによる植民地化計画」と名付けています。

牛込: いずれ、米国メジャーのチームが東京ドームや大阪ドームを陣取って、日本にメジャーの球団ができるんじゃないでしょうか。
二宮: このままだと、日本は、メジャーの人材供給地になるだけ。しかし、鎖国することもできない。鎖国は一番、非現実的です。そんなことをすればアマの有望選手は日本のプロ野球をスルーしてアメリカに向かうでしょう。では開国して戦うしかないとすれば、選手会は大反対するでしょうけど、外国人枠を撤廃しないといけません。そうしないと日本プロ野球の水準が維持できないし、コンテンツそのものの魅力も失われる。

牛込: 外国人枠は不要です。
坂井: 撤廃してみてファンが決定すればいい。「外国人ばかりだから面白くない」なら観に行かなきゃいいし。一度やってみるべきです。
二宮: 日本の野球ファンは、メジャーリーグをよく観ていますが、日本の野球よりレベルが高くて面白いから観ている。日本人が加わって、さらに興味は募ったでしょうが、レベルの低いリーグだったら誰も観ない。ヨーロッパのサッカーシーンだって同じです。

牛込: メジャーの選手の30〜35%はラテン系。やっぱりレベルなんですね。だから、日本も外国人枠なんか撤廃して、良い選手を連れてくればいいんですよ。
二宮: メジャーが手をつけていない極東ロシアや中国は、日本にとって巨大なマーケットになり得る。

牛込: そこに気付くべきです。
坂井: でも、横綱がモンゴル出身者になったら大相撲の価値が下がった、みたいなことを言う人がたくさん出てくるでしょうね。

二宮: 朝青龍や琴欧州がいなくなって、日本人の万年大関が横綱になったら、大相撲の人気はもっとなくなりますよ。強い外国人力士を倒してこそ価値が出る。
坂井: だからこそ、外国人枠はフリーにしたほうがいい。全体の品質の向上を図らないとダメです。

二宮: そうしないと、日本野球のレベルが保てない。名球会に入っている人の顔触れを見てください。日本人以外の人もたくさんいますが、ある意味、彼らの反骨精神やハングリー精神がこの国のプロ野球を活性化させたとも言える。日本野球の名選手に外国人は多い。


(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2007年3月号『スポーツセレブのマネー論』に掲載されたものを元に構成しています>
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