伊藤数子: 9つのパラスポーツ団体による共同プロジェクト「P.UNITED」のパートナー第1号は、日本モーターボート選手会に決まりました。

田中辰美: 日本モーターボート選手会には、これまでもパラスポーツ競技団体に対し、大会運営費の支援やボランティア参加など、物心両面からさまざまなかたちで支えていただきました。今回のパートナーシップ締結を機に、来年には同会が所有する研修施設を利用し、パラスポーツ9団体が連携した研修会の開催を予定しています。

 

二宮清純: プロジェクトや事業を継続していくためにも、パートナー企業や団体を増やしていく必要があります。

田中: おっしゃる通りです。これまで企業は広告換算価値があるかどうかでパラスポーツ団体支援の判断材料にしていました。でも今の流れは変わってきています。社会にどれだけ貢献できるかという観点が求められ、数字には表れにくいもので判断していただいています。

 

二宮: 費用対効果のスポンサーシップから、企業価値を高めるためのパートナーシップに変わっていった、と。私もそれが本来あるべき姿のような気がします。サッカーのJリーグは企業に対し、スポンサーシップよりパートナーシップという呼び方をします。地域密着で、おらがまちのチームを地元のパートナーとして支援する。パラスポーツも同じですよね。パラスポーツを支援することは財務諸表に表れない企業価値が生じるはずです。

田中: そうですね。その意識が社会全体に波及していき、世の中が良い方向に変わっていけばうれしいなと思っています。

 

二宮: 国からの助成はないのでしょうか?

田中: あります。スポーツ庁による「競技団体の組織基盤強化支援事業」で助成金をいただいています。支援期間は3年を予定していますが、スポーツ庁から年度ごとにプロジェクトの進捗・成果の審査を受けます。我々が力を蓄える時間を与えていただきました。このチャンスをぜひとも生かしていきたいと考えています。今年度中に都内で大規模イベントを計画中です。

 

二宮: 素晴らしい。例えば、パラスポーツの講習会で、車椅子の使用方法を習得できる機会があるといいですね。なぜなら早いうちにコツを掴んでおけば、ケガをした時、年齢を重ねて足が弱った時の備えとなる。

田中: それはいいアイディアですね。それはデフアスリートを講師に、手話の講習会というのもありです。

 

 団体間の垣根を払う

 

伊藤: 国やスポーツ庁が推進してもいいと思いますね。

田中: はい。パラアスリートが社会に貢献できることは、まだまだたくさんあると思っています。

 

二宮: 例えばパラアスリートの食生活やトレーニング法から学べることがある。そのノウハウは障がいの有無に関わらず重要なことだと思います。

田中: そういったご要望をいただくこともあるのですが、まだ応えきれていないというのが実情です。我々としても、そのあたりのシステムを構築していく必要があると痛感しています。

 

二宮: 「P.UNITED」というプロジェクトが、ひとつのプラットフォームとなり、いろいろな知識やノウハウが集約されれば、共生社会実現へ近付きますね。

田中: それが理想のかたちです。健常者と障がいのある人が相互利益になることは平等ということ。以前、私はデイサービスセンターに勤めていました。私は利用者である障がいのある人から、気持ちの面で支えられました。利用者と私の関係に上も下もない。それぞれに違いがあって、平等です。そのことを「P.UNITED」の活動を通じ、伝えていきたいと思っています。

 

伊藤: 「P.UNITED」が成功例となれば、後に続くパラスポーツ団体も出てきますね。

田中: そうなるといいですね。「P.UNITED」に新たなパラスポーツ団体が参画したいという声が増えていく。別のかたちの共同プロジェクトも生まれるかもしれません。我々の活動が、そうしたパラスポーツ団体間の垣根を払い、横の繋がりを強くしていきたいと思っています。

 

(おわり)

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田中辰美(たなか・たつみ)プロフィール>

P.UNITED代表。1964年、山口県出身。中学では郷土研究部、高校では美術部と文化部畑を歩み、京都大学入学後ライフル射撃部に入部して射撃競技を始めた。1986年、全関西学生ライフル射撃選手権大会・フリースモールボアライフル三姿勢優勝。山口県代表として国民体育大会多数出場。身体条件を選ばない射撃競技の特性に強い魅力を感じ、1994年から日本障害者スポーツ射撃連盟(現・日本パラ射撃連盟)でボランティアを始める。2004年パラリンピック・アテネ大会監督を始め、多くの国際大会にスタッフとして帯同した。日本パラ射撃連盟では、事務局長を経て2022年度からハイパフォーマンスディレクター。社会福祉士。

 

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