2020年にタキザワケイタ氏が創業したPLAYWORKSは、<障害者との共創から価値を創出>し、社会課題の解決に取り組む株式会社である。インクルーシブな視点から新しいアイディアや製品・サービスを生み出している。従来の白杖のイメージを覆すスポーティーなデザインの「ミズノケーンST」、世界で初めてソーラー発電型のBLEビーコンを搭載した点字ブロック「薄型ソーラービーコン内蔵点字ブロック」などを、理念を共有する企業と共同開発してきたタキザワ氏に社会課題解決への思いを訊いた。

 

二宮清純: 2020年、PLAYWORKSを設立し、社会課題解決に関わろうと思ったきっかけとは?

タキザワケイタ: 私の妻が妊娠した時、妊婦であることを示すマタニティマークの存在を知ったことです。インターネットで「マタニティマーク」と検索すると、関連ワードで「嫌がらせ」「嫌い」といった単語やネガティブな記事が出てきました。もし自分の娘が妊婦になった時、“このままの日本では恥ずかしい。どうにかしたい”と思ったのがきっかけで、マタニティマークのIoT(ものがインターネットに接続されることで通信機能を持ち、相互作用可能な状態であること)化を進めました。妊婦がマタニティマークにビーコンという発信機が埋め込まれたデバイスのボタンを押すと、周囲にいる通話・メールアプリ「LINE」にプッシュ通知が届くサービスです。手助けを必要とする人と、手助けする意思のある人を繋ぐシステムをさらに展開し、障がいのある人にも使える仕組みを開発しました。そこから障がいのある人たちとの接点が増えていき、2017年にPLAYWORKSに繋がる一般社団法人PLAYERSを立ち上げました。

 

伊藤数子: 日本では席を譲ろうと思っても、声を掛ける勇気がないという人も少なくありません。日常的に使用しているアプリで、席を譲って欲しい人と席を譲ろうと思っている人のマッチングが可能というのも魅力ですね。

タキザワ: ありがとうございます。テクノロジーを使い、困っている人とそれを助けたいと思う周囲の人を繋げていく。先ほどマタニティマークに埋め込んだビーコンという発信機を点字ブロックに応用したものが「薄型ソーラービーコン内蔵点字ブロック」です。この製品はセイコーやACCESSなどと共同開発しました。この点字ブロックに近付くと、LINEアプリで道案内の情報が届く。ソーラー発電なので、24時間稼働できます。

 

二宮: それは素晴らしいですね。とはいえ、設置コストなど考えると、公道や施設に設置するというハードルは決して低くありません。

タキザワ: そうなんです。まずは必要性を認識していただくことが大事だと思っています。そこで新たにつくったのが、点字ブロックが敷かれていない場所に、必要な時だけ貼る視覚障がい者歩行テープ「ココテープ」です。点字ブロックは自治体、施設が設置するものですが、視覚に障がいのある人から「“ここに貼ってほしい”とはなかなか言いづらい」という声を聞きました。カバンに入れて携帯でき、必要な時だけ貼り、終われば簡単に剥がせるものをつくりました。

 

 自社製品でない理由

 

二宮: 確かに貼る・剥がすという作業が簡単にできるのがいいですね。

タキザワ: 視覚障がい者が主体的に自分の道をつくるというイノベーションです。これをさまざまな場面で使っていただきたいと思っています。スタジアムや映画館、新幹線移動の際、自分の座席に戻るのが大変でトイレに行くのを我慢する人がいると聞きました。「ココテープ」を目印として自分の座席付近に貼れば、この問題は解決できます。いずれは自治体や施設側が用意していただけるようなものにしたい。災害時には避難所で視覚障がいのある人の誘導路もつくれますから。

 

伊藤: 現在は一般社団法人PLAYERSのリーダーを務めながら、PLAYWORKS株式会社の代表取締役も務めています。2つの仕事の使い分けは?

タキザワ: 一般社団法人PLAYERSとPLAYWORKS株式会社には、社会課題を解決するという共通のビジョンがあり、実現したい未来は変わりません。あえて違いをあげるならば活動の目的と、チームの繋がり方です。PLAYERSはプロボノ(各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを提供して社会貢献すること)のチームで、社会課題に対して純粋に向き合い、社会が少しでも良くなることにチャレンジし続けています。一方のPLAYWORKSは株式会社なので、クライアントに対し、ビジネスとしての成果や価値を出すことが求められます。

 

伊藤: パラスポーツをビジネスにすることに対するアレルギーを持つ方は少なくありません。タキザワさんは「社会課題解決にはビジネスが必要不可欠」とおっしゃっています。

タキザワ: やはりビジネスとしても成功させないと、社会課題を持続的に解決することができません。なので、比較的大きな企業とのコラボレーションを中心に進めています。我々のビジョンに共感していただき、10年後も20年後もそれ以降も世の中に提供し続けられる企業と組むことで、より多くの人に製品やサービスを届け続けられるという判断です。

 

二宮: こういうビジネスは一過性のものではありません。流行り廃りのものではなく、これから高齢社会が進めば、障がいのある人の暮らしを助ける製品は、ますます有用なものになる。マーケットも広がっていく。行政も対応していくべきです。私も含め、多くの人にとっては、まだ自分事ではなく他人事なのかもしれませんが……。

タキザワ: おっしゃるように社会課題を他人事として捉えている方がまだまだ多いというのが実情です。そこは我々の開発した製品やサービスを少しでも多くの人に使ってもらうことで、理解を広げていきたいと思っています。

 

(後編につづく)

>>「挑戦者たち」のサイトはこちら

 

タキザワケイタ(たきざわ・けいた)プロフィール>

PLAYWORKS株式会社 代表取締役。新潟県出身。千葉工業大学卒業後、建築設計事務所、企画会社、広告代理店に勤務。妻の妊娠をきっかけに2017年、社会的支援が必要な人たちに寄り添うサービスのデザインやプロダクト開発などを行う、一般社団法人PLAYERSを立ち上げた。本業の側らで「&HAND」という手助けが必要な人と周囲の支援者を繋げるサービスを発表。2020年、インクルーシブデザインのコンサルティングファームであるPLAYWORKS株式会社を創業した。

 

>>PLAYWORKS


◎バックナンバーはこちらから