第287回 那須川天心、ボクシング3戦目迫る!「『KOする詐欺』はやめる」の意味─。
「次が3戦目で環境に慣れてきたし、(前戦で傷めた)左手も治り調子はいい。今回は、みんなが見たことのない闘い方で魅せられると思う」
1月10日、東京・新宿区にある帝拳ジムで公開練習を行う直前に那須川天心は、そう話した。
プロボクシング3戦目が間近に迫っている。
今月23日、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)『Prime Video Presents Live Boxing 6』で那須川はメキシコ人ファイター、ルイス・ロブレスと闘う。ロブレスはWBAとWBOでバンタム級15位にランクする選手。世界ランカーとの初対戦だ。
「『KOする詐欺』」はやめる」
この日、メデイアとの質疑応答の中で彼はそうも口にした。
昨年9月、東京・有明アリーナでのファン・フローレス(メキシコ)戦の前には「KOで勝つ!」との雰囲気を漂わせながら倒すには至らず。それでも、ダウンを奪っての判定完勝だったのだが、ファンの間からは「やっぱり判定なのか……」との落胆の声も聞かれた。
だから今回は、期待感を持たせ過ぎぬよう「KO宣言はしない」との意なのかと思いきや、違うようだ。
「KOしたいですよ。(KOを)狙っていないと言う奴もいるけどKOした方が楽。ただ、これまでは(相手を詰め切る)やり方がわかっていなかった。そこが噛み合えばバンバン行く。練習を通して、これまでの自分に足りていなかったパーツを集めた。完璧じゃないが揃ってきたんじゃないかな」
(次こそKOで勝ってやろうじゃないか!)
那須川が、そう決意を固めていることがうかがえた。
これまで彼は、相手にクリーンヒットを許さない距離で闘うことを重視してきた。だが、次のロブレス戦ではリスクを伴ってでも、これまでよりも近い距離での攻防に挑むつもりだ。相手が出てくるのを待ってのカウンター狙いではなく、自ら攻め込むというのである。
ロブレスは甘い相手ではない
その覚悟は、この日に公開された4ラウンドのスパーリングでも存分に見て取れた。
カルロス・ノルベルト・ロペス(WBA世界バンタム級28位/19勝<7KO>3分)、ヘスス・ラミレス・ルビオ(21勝<15KO>2敗3分)、2人のメキシカンを相手に那須川は積極的に前に出て強打を打ち込んでいた。中間距離、近距離でのパンチの交錯にも自信を得ており、それを大阪のリングで実践するつもりなのだろう。
那須川の最大の武器はスピード、また卓越したデイフェンス能力も強みである。それらを最大限に活かし、KOはできなくても全ラウンドを支配するボクシングを目指しても良いように私は思う。競技者としては、それが正解だろう。
だが那須川は、そこで満足していない。観る者を納得させる闘いをして勝ち、嵐を巻き起こしたいのだ。
練習通りの動きで世界ランカーのロブレスをKOできたなら、新境地が開ける。しかし、苦戦を強いられての判定勝ち、もしくは敗れたなら目指すスタイルを再考することになろう。
勝つのは当然、KOできるかどうかが試合のテーマーー。
観る者の多くがそんな雰囲気を醸しているが、好戦的なファイターであるロブレスはそんな甘い相手ではない。
先に進めるかどうか。
那須川にとっての「試練の一戦」を注視したい。
なお、同イベントでは2つの世界戦も行われる。
<WBA&WBC世界ライトフライ級タイトルマッチ>
寺地拳四朗(BMB/王者)vs.カルロス・カニサレス(ベネズエラ/WBA1位、WBC2位)
<WBA世界フライ級タイトルマッチ>
アルテム・ダラキアン(ウクライナ/王者)vs.ユーリ阿久井政悟(倉敷守安/1位)
テレビ生中継はなく、試合の模様は「Prime Video」で生配信される。
<直近の注目格闘技イベント>
▶1月14日(日)、東京・後楽園ホール/「RISE 175」スーパーフェザー級タイトルマッチ、チャンヒョン・リーvs.大雅ほか
▶1月14日(日)、大阪・ドーンセンター/「ACF 99th」キックボクシング・ウェルター級タイトルマッチ、ストロング小林vs.チェ・ジェウクほか
▶1月21日(日)、群馬・オープンハウスアリーナ太田/「TOP BRIGHTS.1」吉成名高vs.ジャオクントーン・ソーペッチタワンほか
▶1月21日(日)、大阪 世界館/「WARDOG.45」フライ級王座決定トーナメント準決勝ほか
▶1月28日(日)、東京・後楽園ホール/「Krush.157」フライ級タイトルマッチ、悠斗vs.大夢ほか
▶1月28日(日)、東京・有明アリーナ/「ONE 165」キックボクシング・フライ級チャンピオンシップ、スーパーレック・キャットムーカオvs.武尊ほか
▶1月28日(日)、東京・竹芝ニューピアホール/「PROFESSIONAL SHOOTO 2024 Vol.1&2」環太平洋バンタム級チャンピオンシップ、藤井伸樹vs.須藤拓真ほか
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『伝説のオリンピックランナー“いだてん”金栗四三』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(いずれも汐文社)ほか多数。
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