FA権を利用してエンゼルスからドジャースに移籍した大谷翔平の報酬は、10年総額7億ドル(約1015億円)。

 

 

<この原稿は2024年1月19日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

 

 これを受け、MLBドットコムは<リオネル・メッシがFCバルセロナと2017年に結んだ4年6億7400万ドルを上回った>と報じた。言うまでもなくプロスポーツ史上最高額である。

 

 驚いたのは、その支払方法だ。7億ドルのうち、実に97%の6億8000万ドル(約986億円)が契約期間終了後の後払いで、契約期間内(2024年~33年まで)は年に0.3%分の200万ドル(約2億9000万円)しか受け取らないというのだ。

 

 なぜ、大谷サイドはこんな複雑な支払いスキームを選んだのか。背景にあると見られるのが、ラグジュアリー・タックス(ぜいたく税)対策だ。

 

 ぜいたく税とは、MLBが、戦力の均衡を目指して97年に導入した制度で、課徴金制度ともいう。

 

 もし、この制度がなければ、潤沢な資金力を誇る大都市の富裕球団とローカル球団との間に深刻な格差が生じ、レギュラーシーズンは味気ないものになる。ひいてはMLB全体の人気にも影響が及ぶ。

 

 それを阻止するために設けられた制度だが、当時の制度設計者も、ぜいたく税を軽減する巨額の“後払い契約”についてまでは知恵が及ばなかったようだ。

 

 もっとも、この手を用いたのは大谷が初めてではない。ドジャースではムッキー・ベッツやフレディ・フリーマンも、契約終了後に分割して受け取るスキームを組んでいる。

 

 なお、ぜいたく税の対象となる規定額については、毎年のように変更される。たとえば2022年は2億3000万ドル(約319億円)、23年は2億3300万ドル(約337億8500万円)、24年には2億3700万ドル(約344億4500万円)になる予定だ。

 

 では、規定額をオーバーした球団はいくら徴収されるのか。最初の年は超過額の20%、2年連続は30%、3年連続は50%。22年はメッツ、ドジャース、フィリーズ、ヤンキース、パドレス、レッドソックスが課徴金の対象となった。

 

 話を大谷に戻そう。先に説明した後払い方式を、善意に解釈すれば、ぜいたく税を軽減されるドジャースは、その分をさらなる補強に回すことができる。

 

「ドジャースと私は、ロサンゼルスの街で、ワールドシリーズ制覇のパレードをするという同じ目的を共有していること、それを100%宣言できます」

 

 と大谷。有言実行の男の新しい挑戦が始まる。

 


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