悪くはないスタートだった。

 

 カタール・ドーハでのアジアカップが開幕。日本代表はグループステージ初戦で、かつて日本を率いたフィリップ・トルシエ監督が指揮を執るベトナム代表と対戦し、4-2で勝利した。

 

 前半11分に南野拓実のゴールで先制したものの、ベトナムのコンパクトかつ組織的な守備戦術に手間取ったのは確か。ベトナムはラインを積極的に上げ、中央を固めつつサイドへのスライドもスムーズで、ボールを奪えば距離感良く丁寧につないで日本のプレスをかいくぐる。トルシエの代名詞である「フラットスリー」がまさに日本の前に立ちはだかり、セットプレーから2点を失った。それでもズルズルとベトナムのペースに引き込まれたわけではなく、前半終盤に南野の同点弾と中村敬斗のゴラッソで勝ち越して折り返している。後半は遠藤航をアンカーにし、中盤も連動して前に出ていく守備でプレスを有効化させて対処し、途中出場の上田綺世が追加点。もちろん前半の2失点は課題として残ったにせよ、結局は横綱相撲で押し切っている。

 

 全体のコンディションとしてはこれからと言ったところか。

 

 しっかりと大会に向けて準備してきたであろう相手に対して、欧州組が多数を占める日本はウインターブレイクのタイミングがマチマチで、逆にブレイクなしに試合をこなしてドーハに入ってきた選手もいる。それぞれコンディションがバラバラだと、連係や意思疎通の面で噛み合わないところも出てくる。全体的に動きとしては良いとは思えなかったものの、それでも修正しながら強さを発揮したあたりは今の森保ジャパンの地力と言える。

 

 初戦が簡単ではないことは、前回の2019年大会を振り返ってみてもそうだ。トルクメニスタン代表に先制されて0-1のまま前半を終え、後半に入って大迫勇也の2ゴールなどで何とか3-2で振り切っている。攻めあぐねて、逆にヒヤリとさせられた場面もあった。

 

 先月、森保監督に話を聞く機会があった。このトルクメニスタン戦の話を振ると、彼は頷くようにして言った。

 

「(大会に向けて)準備期間が凄くあるわけではありません。スタートからパーフェクトに戦うのは難しいということを踏まえたうえで、粘り強く戦っていくメンタリティーは必要。最初からパーフェクトだと思って戦うほどチームは出来上がっていないと思うので、注意して挑みたいとは思います」

 

 まさに指揮官の言葉どおり、粘り強く戦おうとしたメンタリティーこそが焦ることなく、落ち着いて対処できた背景にあったように感じる。前回の課題を踏まえ、コンディションが良くないなかでも「日本、強し」を印象づけて初戦をクリアできたのは大きい。

 

 目標は言うまでもなく、2011年以来3大会ぶりとなる優勝だ。前回は決勝でカタール代表に敗れているだけに、指揮官はじめチームから強い意気込みを感じる。しかしながら、ただ単に優勝する、ではきっと満足しない。というのも日本は次回の2026年、北中米ワールドカップの目標を「てっぺん」に置いているからだ。一度もベスト8入りを果たしていないとはいえ、頂点を目指すからこそチームの意識も当然高くなる。

 

 48チーム制になる次回ワールドカップは決勝まで8試合という長い道のり。これまでよりも1試合増える。

 

 FIFAランクひとケタ台の強豪国であればグループステージから徐々に調子を上げていけばいいが、ドイツ代表、スペイン代表と同グループになった前回のカタールワールドカップのように自分たちよりランキング上位国が2チーム入ることを想定し、ランキングでは日本より下位だったコスタリカ代表に負けていることを考えれば、どの試合も100%で臨む必要がある。決勝トーナメントに入ってからは、心身ともに100%を維持しつつ戦っていかなければ当然ながら「てっぺん」など見えてこない。

 

 指揮官はこのように述べていた。

「これまでは監督としてワールドカップを経験していなかったので私のなかで基準が明確ではなかったところがありました。それが経験できたことによってワールドカップ基準、世界のトップ基準がどういったものなのか明確になってきています。アジアの戦いにおいてもその基準を持って取り組んでいけば、目指すところに近づいていけるはずです」

 

 100%の戦いを持続するには、メンバー固定化では難しくなる。今後のレギュレーションがどうなるかは読めないものの、登録メンバー全員の力を使い切り、5人交代制を最大限に活用してこそ突破口があると考える。

 

 今回のアジアカップは、そのテストの場となる。誰が出ても、誰と誰が組み合わさっても100%のパフォーマンスを出していかなければならない。ベトナム戦では先発の1トップに細谷真大を起用するなど、森保采配にはそういった意図も伝わってくる。

 

 単にアジアカップ優勝を目標とするならベトナム戦の勝利は冒頭に記したように「悪くはない」ものの、先にあるワールドカップを見据えるならばセットプレーの2失点は致命傷になりかねない。これからはより集中力を高めていかなければならない。

 

 一戦一戦しっかりと勝っていき、メンバー全員の力で100%の戦いを続けて優勝をつかみ取る。森保ジャパンにとって絶対にやり遂げなければならない使命である。


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