「アオ、いいよ!」「アオ、ナイスパス!」

 

 シーズン開幕に向けてキャンプも佳境を迎えているサンフレッチェ広島。宮崎・シーガイアの練習グラウンドを訪れると、ゲーム形式のトレーニングではチーム最年長37歳、青山敏弘が的確かつ効果的なパスを連発して周囲からも声が挙がっていた。サンフレッチェ一筋、21年目のバンディエラが順調に仕上げてきているようだ。

 

 チームはミヒャエル・スキッベ監督のもと2年連続の3位。前線からのハイプレスと手数をかけずにゴールに迫る戦い方に磨きを掛けている。これまでの戦力を維持したうえで、湘南ベルマーレから大橋祐紀を獲得。昨季得点ランキング7位の13ゴールを挙げたストライカーの加入で得点力不足の課題にも手を打っており、9年ぶりとなるリーグ制覇に期待が高まっている。

 

 話を青山に戻そう。

 

 昨季はリーグ戦でわずか5試合の出場にとどまった。川村拓夢、野津田岳人、満田誠、松本泰志らに押し出されるような形でベンチメンバーに入ること自体、激減する形となった。ハイプレスに連動する出足の鋭い守備、攻守の切り替え、機動力がボランチには求められるだけに、ベテランが体力面で働き盛りの中堅、若手に張り合うのはなかなかに難しい。それでも1カ月前に先発を指揮官から伝えられたエディオンスタジアム広島のラストマッチとなった11月25日のガンバ大阪戦に初先発して3-0勝利に大きく貢献している。

 

 縦パス、サイドチェンジは相変わらずの切れ味で彼がピッチにいるだけでチーム全体が引き締まっていた。その存在感はさすがだった。

 

 この日の全体練習後も居残りでパスの感触を確かめて汗を流していた。青山と短く話せる時間があった。

 

「(コンディションは)まずまず順調に来ているとは思います。あとはケガだけ気をつけたいですね」

 

 やわらかな笑みを見れば、充実ぶりがうかがえる。ガンバ戦のことなどいろいろと話をしたなかで最後に、どんなシーズンにしたいか、と尋ねた。

 

「それはもう1試合1試合、意味あるものにしたい。それだけですね」

 

 すぐに言葉が返ってきた。今季もコンスタントに出場することはないかもしれない。しかしそれでも大事な試合、大事な場面で青山の力が必要になることは間違いなく、本人も自分の使命に向き合っていると思えた。いざというときに青山を頼れるというだけで、チームにとってどれほど頼もしいか。シーズンは長く、山もあれば谷もある。そのなかで3度のリーグ制覇を知る青山の経験値が必ずや活きてくるに違いない。

 

 念願だったサッカー専用のエディオンピースウイング広島が完成し、今季は新スタジアム元年となる。20年にわたってこのクラブで戦ってきた青山が、新スタジアムのピッチに立ってプレーすることはサンフレッチェにとっても大きな意味があると感じる。

 

 ゆっくりと宿舎に戻る彼の後ろ姿を眺めながら、2015年に3度目のリーグ制覇を果たしてMVPに輝いた後、インタビューした際の言葉を思い出した。

 

「まず1回、自分のプレーを〝認める〟。できるプレー、できないプレーというものを。今のJリーグでもディフェンス能力でいったら、一人で止められるかと言ったらそうじゃないと思うんで。じゃあどうすればいいか。やっぱり周りと連係して抑えにいく。チームのワンピースになれるように周りと協力しながら自分も高めていく。(自ずと)そうなっていったんじゃないですかね。間違いなくみんなに助けられた。だからこそみんなの思いをつなげたい、というものがより強くなっていきました」

 

 前年のブラジルワールドカップで思ったような結果を出せず、2015年シーズン当初もコンディションに苦しんでいた。もがき続けながら自分と向き合い、チームのワンピースとなってキャプテンとして優勝に導いた。

 

 今のスタンスもきっと同じではあるまいか。みんなを助け、みんなから助けられ、みんなの思いをつなげていく。

 

 元気な青山が支えるサンフレッチェ、新スタジアム元年での優勝なるか――。


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