(写真:「スポーツには人を元気にする力がある!?」 2013年11月開催のツール・ド・東北)

 まさかのお正月だった。
 日本中が、1年で一番穏やかにお祝いムードに染まっている最中に、文字通り足元から崩れていった。その被害の大きさは予想以上。日々増え続ける被害状況に、胸を痛めている方も少なくないだろう。
 そんな中で、救助や復旧のために現場で奮闘されている皆様にあらためて敬意を表したい。
 そして、自分たちのフィールドであるスポーツが、“こんな時にどうしたら役に立てるだろうか”と考えてしまう。

 

 スポーツには「力」がある。
 これまでもそう信じて活動してきたが、状況を見ているとそんなきれいごとばかりでは通じない。それでも、このエネルギーを現場で役立てたいという思いに駆られているのは私だけでないはずだ。

 

 直接的な支援とは別に、スポーツだからこそできることがあると思う。
 東日本震災後、様々なスポーツ選手と震災地に赴いたことがある。ようやく普通に生活ができるようになった方々に、“僕たちが一緒にスポーツをやりましょう”と言って迷惑ではないのか? そんな疑問を胸の中に抱えつつも、現地に向かった。到着すると現地の方々が温かく迎えてくれた。少しシャイな子どもたちとキャッチボールをしたり、駆けっこをしたりと様々なスポーツをやっていると、子どもたちが自然と笑顔になっていくのが分かる。

 

 震災復興の過程において、町中が大変な思いをして、大人たちが頑張っている中で、子どもたちにも遠慮があったのだろう。「思いっきりスポーツをしたい」なんて言えなかったそうだ。「でも、今日はいいんだ。さあ走るぞ~!」と言いながら走り回る。それを見る大人の表情も柔らかくなる。やはり子どもたちが元気だったり、楽しそうだったりすると町は明るくなる。これは衣食住の充足だけではできない部分。そこに僅かでもアプローチできたことは嬉しかった。

 

 やっても見ても有効!?

 

「スポーツは、衣食住が整い、生活基盤ができてからのことだ」とも言われる。
 もちろん人間が生きていくうえで、最低限が整わなければ文化やスポーツにアプローチする余裕などない。それでも健康に生きていくために、避難所生活でも最低限、カラダを動かし、エコノミー症候群などを防止することも必要だ。人間は食べること、寝ること、動くことがセットになって気持ちよく生きられる仕掛けになっている。

 

 ただ時折その「動くこと」ができなかったり、後回しになると、なんらかの形でつけを払わされることがある。また動くこと、見ることでメンタルに及ぼす影響も見逃せない。精神的に辛いときにじっとしていると、その状況が改善するのに時間がかかったり悪化したりしてしまう。少しカラダを動かした方が気持ちを切り替えられたりするものだ。避難生活においてスポーツをするのは難しいかもしれないが、少しでもいいから散歩をしたり、体操をしたりして、カラダにも頭にも酸素を送り込めるようにしてほしい。

 

 そして見るスポーツだ。
 東日本震災後、各プロスポーツの対応はいろいろあったが、見事だったのはサッカー界だ。
 震災直後の3月29日に、本来の国際親善試合をチャリティマッチに変更し、大きな反響を呼んだ。その際、当時の日本サッカー協会会長・小倉純二氏はこんなコメントを残している。
「開催することは時期尚早ではないかというご意見もありました。我々としましてはこういった意見を踏まえ、熟慮に熟慮を重ねました。そして、やはり困難な時だからこそチャリティマッチを実施し、微力ではあるとしても被災地の皆さんの支援と一日も早い復興のために役立てたい。そして支援の輪広げるための大きなきっかけとしたい、という想いから開催に踏み切りました」

 

 ここに日本サッカー協会の苦悩、いや当時のスポーツ界の苦悩が集約されているのではないか。「こんな時にスポーツなんて」という批判が少なくない中、スポーツができることは何か、スポーツはどうあるべきかと関係者は皆悩んでいた。どちらに進んでも批判があった中、サッカーはその方向性を最初に見せ、他のスポーツも続くことになる。そして7月の女子サッカーワールドカップでのなでしこジャパンの優勝、プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの日本一達成が被災地にどれだけの元気を届けたのか計り知れない。スポーツという前向きでひたむきな活動は、感情移入しやすく、分かりやすい形なのかもしれない。

 

 ともあれ、震災復興において様々な意味でスポーツは有効であろう。
その使い方を効果的に役立てるよう、スポーツ界関係者が力を発揮する時である。
たかがスポーツ、されどスポーツの力で能登半島に元気を送る時だ!

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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