23日、ボクシングのダブル世界戦がエディオンアリーナ大阪で行われた。WBC・WBA世界ライトフライ級タイトルマッチは王者の寺地拳四朗(BMB)がWBA同級1位・WBC同級2位カルロス・カニサレス(ベネズエラ)に判定勝ち。WBCは4度目、WBAは3度目の防衛に成功した。WBA世界フライ級タイトルマッチは同1位のユーリ阿久井政悟(倉敷守安)が王者のアルテム・ダラキアン(ウクライナ)を判定で破り、王座を獲得した。またデビュー3戦目の那須川天心(帝拳)はバンタム級の世界ランカー(WBA&WBO14位)のルイス・ロブレス(メキシコ)と対戦。3ラウンド終了後棄権により、ボクサー転向後初のKO勝ちとなった。

 

 寺地がWBA元王者カニサレスとの激闘を制し、防衛に成功。メインイベントを締めくくった。

 

 過去日本人相手に無敗(2勝1分け)ということもあり、日本人キラーと呼ばれるカニサレス。26勝中19KOというハードパンチャー相手にボクサーファイタータイプの寺地がどう戦うか。1ラウンドは大振りのカニサレスにヒヤリとさせられる場面もあったが、なんとか踏みとどまった。

 

 試合が動いたのは2ラウンド。大振りの左フックに合わせた寺地の右がカニサレスのこめかみ付近をヒット。足元をふらつかせた相手は寺地にしがみつくようなかたちとなり、両者がリングに倒れ込んだ。カウントアップされたのはカニサレスだったが、踏ん張っていたら寺地の追撃に遭っていたはずだ。結果として、カニサレスは残り時間を耐えることができた。

 

 すると3ラウンドには終了間際のカウンターを食った寺地がダウン。4ラウンドはボディを中心に攻めたが、どちらが優勢とも言えなかった。試合は打ち合いの様相を呈す。寺地は何度か顔面に被弾した。公開採点により4ラウンド終了時点は2者がドロー、1者がカニサレスを支持した。

 

 5ラウンド以降、主導権を握ったのは寺地。ボディを効果的に使い、カニサレスの足を止める。一方のベネズエラからの刺客もラウンド終了間際にラッシュを仕掛ける。7ラウンドは開始早々に攻めたが、徐々にスタミナ切れしているように映った。持ち返した寺地。8ラウンド終了時の公開採点は2者が2ポイント差で寺地を支持し、1者がドローだった。

 

 終盤以降も強打で寺地を苦しめるカニサレス。寺地は11ラウンドから足を使い、距離を取るアウトボクシングを徹底した。「接近戦では僕が不利。さばくのに必死で、自分の思っているボクシングをさせてもらえなかった」と寺地。それでも着実にポイントを取りにいく戦法で王座を守り抜いた。

 

 ジャッジは2者が114対112で寺地を支持し、1者がドロー(113対113)。寺地は王座防衛に安堵しつつも「反省点がたくさん見つかった」と語った。次戦以降はライトフライ級の王座統一戦、フライ級への転級などと見られているが、「今後はどの道にいくかわからないが、これじゃあダメ。倒して勝てるボクシングに仕上げていきたい」と“自分のボクシング”完成を見据えた。

 

 デビューから10年。世界初挑戦の28歳、阿久井が無敗の王者ダラキアンに土を付け、世界ベルトをもぎ取った。

 

 軽快なステップでリングを所狭しと動き回る王者。前を出る阿久井を翻弄し、カウンターで仕留める戦法か。しかしラウンドが進んでも、プレスをかける阿久井、足を使うダラキアンという構図は変わらなかった。徐々に阿久井のパンチも王者の顔面をとらえる。得意の右ストレートだけでなく左のフック、ボディで繰り出す。クリンチされても慌てずパンチを出し、ポイントを稼いだ。

 

 ジャッジ3人が阿久井を支持。リングアナウンサーが「ニューチャンピオン!」とコールすると、両手を挙げて歓喜の思いを爆発させた。「待ち望んでいたベルト。守安ジムの先輩、会長、みんなが欲しがっていた。みんなで取ったベルトです。ここまで支えてくれた家族、ジムの先輩、後輩、守安会長にお礼を言いたいと思います。子どもも妻も親も、全員に感謝したいです」
 守安竜也会長にベルトを巻き、岡山県のジム初の世界王者誕生の喜びを分かち合った。

 

 プロボクシング転向3戦目の那須川は待望のKO勝ちだが、若干の不完全燃焼となった。進化の道程は垣間見えた。ジャブ、ボディで組み立て、ボクサーらしく試合を優位に運んだ。

 

「マジで?」
 那須川がリング上で驚きの声を上げたのは、4ラウンド開始のゴングが鳴った後だ。対戦相手のロブレスが椅子から立ち上がらず、右足首を痛め、試合続行を拒んだからだ。「前回と比べて進化を皆さんに見せている途中だった」と悔やんだが、こればかりは仕方あるまい。

 

 過去2戦はスーパーバンタム級(55.3kg以下)、123ポンド(約55.79kg)で戦ったが、今回は121ポンド(約54.89kg)契約での試合。階級はバンタム級に照準を合わせるようだ。

「バンタム級でいけると自分の中で実感している。日本人でたくさん強い人いると思うのですが、しっかりと世界を狙っている」

 

 現在、国内のバンタム級戦線は来月WBC王者に挑む中谷潤人(M.T)、防衛戦を控えるWBA王者・井上拓真(大橋)のほか、IBF王者への挑戦権を持つ西田凌佑(六島)、元日本王者の堤聖也(角海老宝石)、元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(志成)、K-1から転向した武居由樹(大橋)など実力者がズラリ。これこそ那須川が求めていた世界なのかもしれない。国内最激戦区とも言われる階級の猛者たちへの宣戦布告。リング上での表情は晴れやかだった。

 

(文/杉浦泰介)