31日、ボクシングのWBA世界スーパーフライ級タイトルマッチが東京・大田区総合体育館で行われ、王者の井岡一翔(志成)と同級6位のホスベル・ぺレス(ベネズエラ)を7ラウンド2分44秒KOで下し、防衛に成功した。

 

「勝つことに執着してやってきましたが、今回はKOを見せたいという気持ちが強い」
 戦前からKO狙いを口にしていた井岡が“有言実行”で2023年を締めくくった。

 

 24戦21勝(10KO)2敗1分けvs.23戦20勝(18KO)3敗。この数字だけを見比べると、同等のキャリアを積んできたように映るが前者は井岡の世界戦、後者はペレスのプロキャリア全戦(世界戦は1戦1敗)だ。井岡はキャリアの差を大田区総合体育館のリングでもまざまざと見せつけた。

 

「普段はKOにこだわっていないが、会場と一体感を味わいたかった。いつもよりKOしたい闘志がみなぎっていた」という言葉通り、いつもより前にプレスをかける井岡がいた。ガードの上からでもお構いなしとパンチを振る“モンスター”のような一撃の破壊力はない。だが、井岡には井岡のスタイルがある。上下に打ち分け、相手にダメージを蓄積させていく。

 

「前回の試合から自分の間合いの部分で手応えを掴んだ。いい感覚で練習をできていた。12ラウンドでその姿勢を崩さなければKOできる自信があった」

 試合が動いたのは5ラウンド。残り30秒あたりで井岡がぺレスに右のカウンターを当て、連打でダウンを奪った。カウント8で再開されると、右フックで2度目のダウン。ぺレスが再び立ち上がり、ラウンド終了のゴングが鳴った。

 

 6ラウンドはロープ際に追い込みながら、仕留めるまでは至らない。クリンチを仕掛けてくる相手にはボディを連打して引き剝がそうとした。「強引な中でも計算していた。距離を縮めるだけでは自分のパンチが死んでしまう。自分のスペースを残しながら、角度を変えていった。KOを狙って雑になりそうなところは訂正しながら、コンビネーションを打ち込めた」と井岡。このラウンドは無理をしなかった、と振り返った。

 

 トドメは7ラウンド。試合後、ぺレスが「井岡の的確に入る右がすごかった」と語ったように、右ストレートが挑戦者の顔面に炸裂した。レフェリーが10カウント。宣言通りのKO勝ちで、世界戦22勝目を挙げた。井岡は「心技体。心がないと、勇気を持たないと、技術は出ない。試合に挑むのも恐怖心がある。それは何回、世界戦のリングに上がっても怖い。勇気を出して踏み込むことでパンチが出る」と自身の戦いぶりに胸を張った。

 

 次戦以降について、本命がWBC王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)ということに変わりはない。「一番はエストラーダ選手との試合を実現させたい。ただもうすぐ指名試合の指令も出るやろうし、その中で選択肢が3つ、2つ、1つとなっていく。現役を続ける以上やっていくしかない」。WBA王座を守りつつ、復帰の理由のひとつであるエストラーダ戦を目指していく意向だ。

 

 ペレスのセコンドに就いたホセ・アルフレド・カバジェロトレーナーはエストラーダのマネジャー兼トレーナーでもある。両者の対戦については「今、エストラーダにはたくさんのオファーが来ている。井岡選手のプロモーターとも話をしている。両陣営とも興味はあるが、エストラーダの希望する額での合意がないと難しいと思う。エストラーダ個人としては、井岡とやりたい」と含みを持たせた。

 

(文・写真/杉浦泰介)