タキザワケイタ(PLAYWORKS代表取締役)<後編>「多様な“リードユーザー”との共創」
伊藤数子: タキザワさんは、プロジェクトに関わる障害のある人たちを「リードユーザー」と呼んでいるそうですね。
タキザワケイタ: はい。障がいのある人にプロジェクトメンバーとして参画していただき、一緒に製品やサービスを開発しています。ここで言うリードユーザーとは、これまで障がいによって苦労してきたこと、工夫してきたことを、社会にとって価値のある情報として伝えられる人。我々はリードユーザーのことを「未知の未来に導いてくれる人」と定義しています。例えば視覚障がい者は「光のない世界」、聴覚障がい者は「音のない世界」、車いすユーザーは「移動」のプロです。我々はリードユーザーからいろいろなことを学びながら、共に新しい価値をつくるチャレンジをしています。
二宮清純: 未知の世界への案内人のようなイメージですね。
タキザワ: おっしゃる通りです。自分の障がいを価値のあるモノに変換できるマインドを持っている当事者は決して多くない。多様なリードユーザーを増やしていくことも、我々のチャレンジです。また障がい者雇用において、リードユーザーとして活躍する障がいのある人が増えていってほしいと思います。自分に専門性があり、それがビジネス的な価値があると気付いていない人も多いんです。
伊藤: その意味ではパラアスリートは、社会課題解決に対して積極的な人も多いですし、リードユーザーになり得るタイプですね。
タキザワ: 先日、スポーツジムでワークショップを開催し、ブラインドサッカーの選手や、世界陸上に出場した視覚障がいのある人に参加してもらいました。そういった方たちをどう巻き込んでいくかも大事なテーマだと思っています。
自慢したくなる白杖
二宮: 2022年3月に発売されたスポーティーなデザインの「ミズノケーンST」も同じようにリードユーザーが関わって制作されたのでしょうか?
タキザワ: はい。このプロジェクトは、スポーツメーカーのミズノとの協業で視覚障がい者向けの靴をつくろうというところからスタートしました。しかし、視覚障がい者にヒアリングをしていった結果、日常的に使っている白杖に満足していないということがわかってきました。また当事者からは「白杖を持ちたくない」「隠したい」という声も聞かれました。そのためミズノケーンSTは“持って出かけたくなる白杖“をコンセプトとしています。人に見せたい、自慢したい、外出したくなる。「持ちたくない」という意見とは、真逆のコンセプトを打ち出しているわけです。
伊藤: 「ミズノケーンST」はスポーツメーカーのブランド力も効いていますし、それにデザインもカッコいい。
タキザワ: ありがとうございます。福祉機器は機能性に特化しているものが多いです。またスポーツメーカーのミズノが障がいのある人向けの製品を世に出すのは初めてのこと。すべての人がアクティブな日常を送ってほしいという思いから、生まれた製品です。
二宮: リードユーザーからの意見が製品づくりに大きく役立っているということですね。
タキザワ: 何よりもリードユーザーとのモノづくりは、単純に楽しいですね。障がいのある人の視点は、我々にとって発見の連続。それが私自身とても楽しく、創造力を刺激されます。そこから生まれた製品が企業や社会にとって価値のあるものであれば、リードユーザーに対価を渡せる。ただし、このようなプロジェクトに関わる責任は大きいと考えています。いろいろな人を巻き込みながら進んでいきますから、協力してくれる人、応援してくれる人たちを裏切りたくない、最後までやり切る責任がある。それを忘れずに常に全力で取り組んでいます。
二宮: 今後に向けては、どのような展望を?
タキザワ: デフリンピックが2025年に東京で開催されることもあり、聴覚障がいに関するプロジェクトをリードユーザーと共にチャレンジしています。社会実装までやり切り、インクルーシブデザインの可能性を、もっと多くの人に知ってもらえるように頑張っていきます!
(おわり)
<タキザワケイタ(たきざわ・けいた)プロフィール>
PLAYWORKS株式会社 代表取締役。新潟県出身。千葉工業大学卒業後、建築設計事務所、企画会社、広告代理店に勤務。妻の妊娠をきっかけに2017年、社会的支援が必要な人たちに寄り添うサービスのデザインやプロダクト開発などを行う、一般社団法人PLAYERSを立ち上げた。本業の側らで「&HAND」という手助けが必要な人と周囲の支援者を繋げるサービスを発表。2020年、インクルーシブデザインのコンサルティングファームであるPLAYWORKS株式会社を創業した。