アジアサッカー連盟(AFC)が29日に発表したところによると、カタールで行われてアジアカップの観客動員数が、11試合を残した時点で史上最多を記録したという。

 

 ちなみに、これまでで一番多かったのは04年の中国大会だそうだが、この時の参加国は16。1次リーグの試合数が現行より12試合少なかったことになり、一概に観客数が増えたとは言い難い部分はある。ただ、あくまで“延べ”であるにせよ、かつてないほど多くの観客がスタンドに足を運んでいるのは事実で、開催国以外は盛大に閑古鳥が鳴いていた過去の大会に比べると、ずいぶんとマシになったのは間違いない。

 

 大会自体に対する関心、注目度も変わりつつある。つい最近まで、アフリカネーションズカップの動向に注目する欧米人はいても、アジアカップに対する関心は限りなくゼロに近かった。当然と言えば当然。欧州5大リーグでプレーするアフリカ人選手の数は100人を優に超えるが、アジアは日本と韓国を足しても、たとえばセネガル一国に遠く及ばないからである。

 

 だが、いまやリバプールやサンセバスチャンには、遠藤や久保の復帰を、首を長くして待っているファンがいる。欧州における大会報道も以前とは比較にならないぐらい増えた。80年代から90年代にかけて、W杯におけるカメルーンやナイジェリアの活躍がアフリカネーションズカップへの関心を高めたように、欧米人にとってのアジアは無視できる存在ではなくなりつつある。

 

 そうした流れに、実は一番無頓着なのが日本人なのかもしれない。

 

 イラクに負けた。けしからん。インドネシアに1点を取られた。ひどすぎる。今大会の日本代表に辛口の見方をする人の多くは、「アジアなんか勝って当たり前」という前提に立っている。

 

 だが、大会は急速な勢いで変貌を遂げつつあり、また、参加国の意識も変わりつつある。

 

 ご存じの通り、W杯カタール大会ではモロッコがベスト4に進出した。日本人からすれば、アフリカの躍進でしかないが、イランを除く中東のほとんどの国にとって、同じ宗教を信じ、アラブ民族で構成されるモロッコの躍進は、限りなく“自分たちの躍進”に近かった。

 

 しかも、W杯直前に少なくはない数の強豪国が中東でキャンプを張ったことで、W杯とは無縁の存在だった国々も、ある程度世界のトップレベルを肌で感じることができた。結果として、ここ十数年、かなり根強かった彼らの日本や韓国に対する畏れは、着実に小さくなった。

 

 日本のサッカーは、プロ化したことで強くなった、と言われる。では、なぜプロになると強くなるのか。理由の一つに、「見られること」があるとわたしは思う。観客数百人の前でプレーしていた日本リーグの選手たちは、大観衆に見られることで飛躍的に戦闘力をあげた。

 

 そして、向上した戦闘力をさらに高めたのは、勝つこと、経験することによって得られた自信だった。

 

 だとすると、いまアジアカップに起きている変化は、日本サッカーがここ四半世紀あまりで経験してきた変化そのものでもある。

 

 依然として、日本には「アジアで勝って当然」という意識が強い。仕方のないことではる。ただ、上から目線でいられる時間は、それほど残されていないかもしれない。この大会に対する認識を根本的に改めなければいけない時は、確実に近づいてきている。

 

<この原稿は24年2月1日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>


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