3日、第10回全国女子ラグビーフットボール選手権大会決勝が東京・秩父宮ラグビー場で行われ、東京山九フェニックスラグビークラブがPEARLSを40-24で破り、同大会2連覇を達成した。

 

 女子ラグビーの日本一を決める戦いは、リーグワンの東京サントリーサンゴリアスとスーパーラグビー・パシフィックのブルーズ(ニュージーランド)の国際交流試合「THE CROSS-BORDER RUGBY 2024」後に行われた。1万3278人を集めた第1戦から会場を後にする客もいたが、それでも3000人以上の観客が残っていただろう。昨季は単独開催(神奈川・小田原市城山陸上競技場)で704人。選手たちは4倍以上の観客の前で溌溂としたプレーを見せた。

 

 先制はPEARLS。前半7分、敵陣右サイドから左に展開し、WTB三谷咲月がインゴール左に飛び込んだ。しかし14分にいいキャリーを見せていたニュージーランド代表3キャップのLOタフィト・ラファエレが左肩を負傷し、負傷交代で失うと徐々にペースはフェニックスに傾き始める。

 

 SO大黒田裕芽のキックに反応したのがWTB野原みなみだ。ともに昨年秋に結婚したという2人は抜群のコンビネーションを見せる。18分、大黒田が左サイドでボールを持つと裏のスペースへ低い弾道で蹴った。インゴールでのボールの処理に迷った相手のスキを縫ってグラウンディングしたのが野原だ。「ターンオーバーになった瞬間、裕芽さんと目が合った。“行くよね?”みたいな感じで、私も駆け出す準備はできていました」。26分にはゴール前中央で左サイドへキックパス。野原がジャンプしてそのボールをキャッチし、そのままインゴール左に飛び込んだ。

 

 大黒田はいずれもコンバージョンキックを成功し、14-5とリードを広げた。さらに32分にも絶妙なグラバーキックでFB松村美咲のトライをアシストした。正確なプレースキックでも貢献。コンバージョンキックを決め、21-5と差を広げた。ケン・ドブソンHCは「裕芽によく言うのは『ダイヤモンドなのか、石なのか』と。すごいプレーをする時と、雑なプレーをする時がある。今日のパフォーマンスは、本当に素晴らしいダイヤモンドばかりだった」と称えた。

 

 前半終了間際に7点を返されたフェニックスだが、後半開始直前、PEARLSより先にピッチに入り、ウォーミングアップをしていた。CTB古田真菜によると「後半の立ち上がりが課題だったので、全員が落ち着いていけるように去年から始めていました」という。

 

 4分、FL高橋李実のキックチャージでインゴール内にこぼれたボールに鈴木がいち早く反応。飛びつくようにグラウンディングし、後半最初のトライを挙げた。大黒田のコンバージョンキックが決まり、28-12とリードを広げた。11分には野原のハットトリック達成となるトライなどで、23点差をつけて勝利をほぼ決定付けたかと思われた。

 

 しかし、意地を見せるPEARLSに16分と33分にトライを奪われるなど、11点差に迫られた。ここで鈴木はチームメイトを呼び、ハドルを組んだ。

「本当にこの80分間、フィールドに立って試合をできることは光栄なこと。“何があっても後悔なく楽しむ”とは、私たちの中でずっと言ってきたことだった。残り数分という状況で、どんな結果であっても私たちは受け入れる準備をしてきました。『最後までしっかりやってきたことをやり切ろう』と80分を通して言ってきたので、最後もそういう話をしていたと思います」

 

 昨季も決勝で「大丈夫」とチームメイトに声掛けをしていた鈴木だが、この日も身体と声を張り続けた。キャプテンに引っ張られ、一丸となって戦ったフェニックスは試合終了間際にPR髙木恵のトライでトドメを刺し、40-24で試合を締めくくった。フェニックスのケン・ドブソンHCは試合後の会見で、こう喜びを語った。

「勝てて嬉しい。PEARLSさんからプレッシャーを受けてしまったが、ディフェンスで粘れて最後の結果につながった。女子ラグビーは面白いという思ってもらるような、そのくらいレベルの高い試合だったと思います。我々だけじゃなく、大学やクラブチームの選手たちの意識も高いし、スタッフコーチもよくやっています。日本の女子だけで本当に高いレベルになっていくと、今日は素晴らしいファイナルになったと思います」

 

 鈴木は「家族みたいな選手たち。どんな状況になっても最後まで戦い続けてくれた。みんながどのシーンでもスキを見せずに戦ってくれて本当の誇りに思います」と連覇を喜んだ。

「昨年は関東大会から全国大会までチャレンジャーという気持ちで臨んでいたので、本当に何も失うものはなかった。今年は関東大会から、“フェニックスを倒す”という気持ちで各チームがものすごく私たちをターゲットにしていると感じましたし、その関東大会を経て準決勝、決勝と勝ち進めたこと、そして最終的に秩父宮というラグビーの聖地で、こんなにたくさんの観客の皆様の前でプレーでき、すごく緊張もあった。その緊張の中でもたくさんの声援が聞こえて、その声に助けられたというか、苦しい時間帯も乗り越えることができました。女子ラグビーにとって、すごく大事な1試合だったのでそこで勝ち切ることができてすごくうれしいです」

 

 キャプテンとしての苦労は、ほとんどなかったという。

「今年はシーズン初めに怪我をしてしまって、最初の数試合出ていないんですけれども、その時にどういうふうにキャプテンとしてチームに携わっていくかを考えていました。でも、それを考える必要ないくらい、みんなが自分の役割を全うしてくれますし、今シーズンは本当に長いシーズンだったので、自分たちのエネルギーが少し波があったところがありましたが、本当に1人1人が頼もしかった。その中で少し悩んだ時に、ケンHCはじめスタッフのみんなが私たちにすごく自信をつけてくれるようなアプローチをしてくれたので、キャプテンとして悩むということは、本当にみんなに助けられて、あまりなかったというくらい、チームに恵まれたなと思っています」

 

 キャプテンの鈴木はチームを「家族」と評す。PR柏木那月も「フェニックスはその思いが、どこのチームより強い」と頷く。フェニックスの売り、魅力は、その雰囲気の良さかもしれない。

「一緒にキツイ練習を乗り越えてきたので、ハードな試合になった時もお互いを信頼できる関係性が強かった。チームは明るく、練習に対しても前向きな選手が多い。また自分が緊張している時、周りにダンスをする選手がいて、“いつも通りだな”と(緊張も)落ち着きます」(古田)

「選手層が厚くて誰が出るとか固定されていなかった。普段の練習からライバル意識を持ってやれていたのがチームの向上に繋がったと思います。本当に“陽キャ”がたくさん集まったチーム。元気が出ます。仕事が終わって疲れて練習に参加しても、騒いでるみんなを見て救われています」(野原)

 

 フェニックスは短いオフを経て、オーストラリアに遠征し、現地のチームと対戦するという。進化の歩みを止めるつもりはない――とでも言わんばかりに、フェニックスは更なる飛躍を目指す。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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