「あったー!!」 
 10月20日土曜日の22時過ぎ、明かりもなく自分がどこにいるのかわからないくらい真っ暗なグラウンドの前で、私は叫びました。
 グラウンドのある運動公園の入り口で車のライトが「暴走や集会など夜間の出入りを禁止します」の立て看板を照らします。昼間ののどかさとは裏腹の闇の中を、入っていきました。
(写真:宝物のグローブ)
 球場の周りをぐるりと囲む車一台がやっと通れる幅の道をゆっくりと進んでいくと、1塁側入り口横の低い金網に、私が死ぬ気で探しに来た忘れ物がありました。思いっきり見覚えのある袋の中に、忘れていった形のまま私のグローブがありました。

 このグローブは、チームが発足したばかりの2006年4月に、大塚監督からいただいたグローブです。
「お前にやったる」
 そう言って渡された真新しい外野用グローブは、赤と白の配色がかわいい外野用。渡すべき人に渡せなかったあまりものなのだということは察しがつきましたが、一目でとても気に入り、大事にしてきました。
 それを忘れたと気づいた練習終了5時間後の21時、「失くしてしまった〜」という思いのみが心を征服し、どうやったら見つかるのかということすら考えられない状態に……。「通りがかりの人が持って行っちゃってるんだろうな……」。半べそをかきながらチームメイトに言いました。
「グローブ失くした」
「大塚さんからもらったグローブ?」
「うん」
「うんって……。どうするの?」
「探しに行きたい」
「……」
 こうして片道30分の夜道を走らせ、無事にグローブを見つけることができました。

 帰りの車の中で改めてグローブを見つめていると、目に飛び込んでくるのは親指側にショッキングピンクで刺繍されているこの言葉です。
「大塚より愛を込めて」
 今まで以上に大切にしようと、しみじみと感じた夜でした。


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広瀬明佳(ひろせ・さやか)
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

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