昨年10月以来、実戦から離れている我がチームに、ひと通りいつもの練習を終えた後、さらにコーチが練習を加えました。
 それは、ピッチャーとバッター11人の真剣勝負。
静まり返った室内練習場には、キャッチャーミットに投げ込まれるボールの音だけが響いていました。
 勝負を見つめるみんなのすき間をぬって歩いていた私が、ベンチに立てかけてあったバットに軽く躓き、コツンという小さな音を立ててしまっただけでも、コーチに舌打ちされる始末。ワイワイといったようないつもの雰囲気とは違い、試合以上と言ってもいいくらいの緊張感が走っていました。

 ストレートを狙うか、変化球を狙うか、ひとりひとりが自分に割り当てられた一打席の中で、互いに読みあい、勝負をします。
 7人を終えて、ヒット性のあたりを打ったのはたったひとり。完全にピッチャー優位です。
キャッチャーが、泉谷からふたりめの田中に代わる時、コーチが泉谷に聞きました。
「球数何球や」
「28ですね」

 球数を確認すると、サインの確認をし終えた田中がマウンドから定位置に戻り、8人目が始まりました。
 11人を終え、結局ヒットを打ったのはたったひとり。自分たちのバッティングにひとりひとりが考えさせられました。3月下旬に公式戦を控える今、とても有意義な練習だったと感じています。

 まだ重い緊張感が残る中、マスクを外した田中に、コーチが聞きました。
「球数何球や」
 チーム全員が田中に注目します。田中の一瞬の沈黙に全員が不安になったそのとき、
「すいません、数えてませんでした」
「なんでやー!!」
 今までの静寂を破る13人の大爆笑。

 今年もこんな調子で公式戦まで飛ばしていきたいと思っています。


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広瀬明佳(ひろせ・さやか)
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

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