チームが発足した05年、初代キャプテンには、今はチームを離れたS君が就いていました。キャプテンに選出された理由は、「初練習のとき一番元気がよかったから」です。
 今考えると、キャプテンにふさわしい選手がいなかったのだと思います。
 しかし、S君が就職を機に忙しくなり、活動に全く参加しなくなったことで、2ヶ月ほどキャプテン不在の状態になりました。見かねた監督が、ある練習の日、おもむろにキャプテンを交代しました。

 こっちこいよ、といった感じでコーチを手招きする監督。小走りで駆け寄ったコーチに聞こえるような聞こえないような声の大きさで何かを話し、
 「ええよな?」「いいんじゃないっすか?」
 と確認の後、
 「おい! アライ〜!」と監督のつんざくような呼び声。
 もしかして……。

 「キャプテン交代な」
 監督が決めたことです。誰も反論する人はいません。

 でもその後が大変でした。
 新キャプテンはチーム一の“瞬間湯沸かし器”(こんなこと言ったらまた怒られるかな……)。ちょっとしたことでも感情を思いっきり表に出すキャプテンの下ではチームがなかなかまとまりません。

 先週行われた今季初のオープン戦は監督とコーチが不在でした。
 「監督とコーチに良い報告ができるように、キャプテンを中心に頑張ろう!」
 そう言って試合に臨んだ途端、後攻の我がチームは1回表に7点という大量失点。守備のミスも絡み、またもや暗い雰囲気に。
 どんよりとした雰囲気でベンチ前に集まる選手の真ん中で、キャプテンが話をしようとしました。
 「また不機嫌になっちゃうかなぁ……」今までキャプテンの気もちひとつでチームの雰囲気が変わったことは一度や二度ではありません。
 しかし……。
 「7点取られたけど、これが今の俺たちの実力。これはこれで受け止めよう。でもここで終わりじゃない。まだ9回ある。取り返そう」

 正直、拍子抜けしました。絶対怒ると思っていましたから。

 試合は大量失点で負けてしまい、大きな課題が残りました。キャプテンは「いいところなんてひとつもなかった」と頭を悩ませていましたが、私は先週の土曜日、本当の意味でキャプテンが誕生したと思っています。それが大敗の中での唯一の大きな収穫でした。

★携帯サイト「二宮清純.com」では、このコーナーのコラムをHPに先行して配信中です。紅一点の女子部員の奮闘ぶりを一足早く携帯でお楽しみいただけます。更新は第1、3火曜。ぜひ、チェックしてみてください。
広瀬明佳(ひろせ・さやか)
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

(このコーナーは毎週第1・3木曜日に更新いたします)
◎バックナンバーはこちらから