3月31日(現地時間)に予定されたヤンキースの開幕戦はあいにくの雨で順延。仕切り直しで迎えた翌4月1日のゲームは、追いつ追われつのシーソーゲームとなった――。
(写真:ヤンキースと松井秀喜にとって疑問符の多いシーズンが開幕した)
 ヤンキースが初回にアレックス・ロドリゲスの一打で先制すれば、ブルージェイズも先発の王健民を攻め立てすぐに逆転。しかし最後は松井秀喜の2塁ゴロの間にヤンキースが勝ち越し点を挙げて、接戦に終止符を打った。
「チームと契約した(昨年)11月1日からずっとこの日を待っていたんだ。これまでの準備が報われたよ」
 新指揮官ジョー・ジラルディは試合後に満足気にそう語り、初勝利の喜びを笑顔で表現した。

 実際に、この日の勝ち方は、一見するとヤンキースにとって申し分のない形だったようにも思える。
 粘り強い攻撃で球界屈指の右腕(ロイ・ハラデイ)から最低限の得点をもぎとった。先発投手が試合を作り、ジョバ・チェンバレン、マリアーノ・リベラというブルペンの2枚看板に繋ぐ「勝利の方程式」も機能した。

 昨年はまったく攻略できなかった相手エース級から挙げた勝ち星という意味でも、この1勝は大きいだろう。90年代後半の黄金期を彷彿とさせる必勝パターンが確立すれば、ライバルチームにとって脅威となるはずだ。
「今日はチームの全選手が持ち味を出した試合だった」
 試合後の松井のそんなコメントからも、今季初戦でいきなり得た手応えが存分に感じられた。

 ただ・・・・・・それでもこの日のヤンキースの勝利には、多分にラッキーな側面があったのも事実ではある。
 今季もエース役を任せられるはずの王健民は必ずしも完調に見えなかった。序盤からピンチを招く場面も度々で、相手の拙攻に助けられた部分も大きい。昨年のプレーオフで打ちのめされたショックが今オフを通じて心配されてきたが、この夜の登板ではその懸念を吹き飛ばすまでには至らなかった。
(写真:王健民はエース役を果たし切れるのか)

 メルキー・カブレラが放った同点ホームランも決して会心の当たりではなく、ヤンキースタジアムのライトの狭さがゆえの一発だったと言える。打たれた直後のハラデイは憤りを隠さなかったが、その怒りは他のほとんどの球場ならライトフライの一打で1点を奪われたことへの失望がゆえだったのだろう。

 さらに決勝点を挙げた松井の2塁ゴロにしても、本来ならダブルプレーとなってしかるべきの打球だった。相変わらず細かい部分で拙いブルージェイズの野手陣は、最も大事な場面で最大のミスを犯してしまったのだ。

 こうして書いていくと、緊迫感のある試合を制したヤンキースに難癖をつけているように聴こえるかもしれない。そもそも相手のミスにつけ込んでの勝利は強者の特徴と言えるし、そういった勝ちをいかに積み重ねられるかが長いシーズンの鍵となってくるのだろう。

 だがその一方で、筆者が戦前から考えていた今季のヤンキースの欠点は、この日の試合でも変わらずに露呈されていた。
「エース級を打てない打線」「大黒柱を欠く先発投手陣」「主力のスピード感のなさ」「ベテランの衰え」。このチームのアキレス腱であり続けてきたそれらの部分は、今季もまったく変わっていないように思える。

 この開幕戦でもハラデイから勝ったとは言っても、真の意味で打ち崩したわけではない。2年連続開幕投手の王も、大黒柱投手としては物足りない感は否めない。松井やジョニー・デーモンらベテラン外野手たちの動きの鈍さは、今後向上に向かう保証はどこにもない。

 2008年開幕戦からは、ヤンキースの良い部分だけでなく、悪い部分も同じくらい数多く垣間見えた。相手が未だに脆さの残るブルージェイズだったからそれでも勝ち切れた。
(写真:建設の進む新ヤンキースタジアムへの移転を直前に控え、通算27度目の優勝を飾れるのだろうか)

 しかし、さらにスキのないレッドソックス、インディアンス、エンジェルスらと対戦したとき、バランスの悪いこの戦力で対抗し得るのだろうか。過去7年連続で敗れたのとほぼ同じ主力メンバーで、若手投手の成長だけを頼りに、悲願の王座奪回は叶うのだろうか。少なくとも今季の第1戦では、それらの疑問を払拭するには至らなかったのは事実である。

 案の定、翌日に行なわれた今季第2戦では、好投手AJ・バーネットの前に何の工夫もなく凡打を重ねた。アレックス・ロドリゲスの本塁打による2点を挙げただけに止まり、昨年のプレーオフを彷彿とさせる展開で完敗を喫したのだ。

 まだシーズンは始まったばかり。しかし筆者は開幕前、今季のヤンキースは多くの弱点に足を引っ張られ、アリーグの高レベル度も災いし、12年振りにプレーオフを逸すると考えていた。そして最初の2試合が終わった時点でも、依然としてその予想を変えるつもりはない。

 ヤンキースにとって、長く厳しい1年の開始———。
 行く手には、近年最大のイバラの道が待ち受けている。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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