ボストン・レッドソックスの日本開幕戦が間近に近づいている。
 ジョシュ・ベケットの不参加という残念なニュースはあったものの、おかげで松坂大輔が開幕投手の栄誉を授かることになった。日本のヒーローの凱旋登板が華やかな舞台で実現するという意味で、今年の開幕シリーズは日米両球界にとって歴史的なイベントといえるのかもしれない。
 しかも、ワールドシリーズを制したチームがその翌年に公式戦のために来日するのはこれが初めて。現在メジャーの最高峰にいるチームのプレーが目の前で見られるというのは日本のファンにとって貴重な機会である。
 特に今のレッドソックスは、MLBに新時代を築いていく予感さえ感じさせるチームなのだから、なおさらだ。
(写真:主砲デビッド・オルティースらレッドソックスの主軸たちは日本でも豪打を見せつけてくれるはずだ)
 昨季に誰をも納得させる強さでこの4年間で2度目の世界一となった後、今オフのレッドソックスは大きな補強を行わなかった。
 FAだったマイク・ローウェル三塁手と再契約し、あとは控え一塁手としてショーン・ケイシーを獲得した程度。ヨハン・サンタナの獲得競争に一応顔を出しはしたが、それも宿敵ヤンキースの動きを牽制するためのもので、本気でトレードをまとめようとしていたようには思えなかった。
 下手に動かない方がチームは強くなる。現在のメンバーを保持すれば充分に連覇が狙える。今のレッドソックスはそんな位置にいる。自身が作り上げたチームの強さを誰より自覚しているからこそ、セオ・エプスタインGMは、今オフは積極補強に乗り出さなかったのだろう。

(写真:クセの多い選手たちを上手くまとめるフランコーナ監督もそろそろ名将と呼ばれるようになって来た)
 べケット、ジェイソン・バリテック、デビッド・オルティース、マニー・ラミレル、ローウェルなど、すでに2度以上の優勝経験を誇る勝負師たちが揃っている。ダスティン・ペドロイア、ジャコビー・エルスベリー、クレイ・バックホルツなど伸び盛りの若手も多い。さらにフリオ・ルーゴ、JD・ドリューら昨季は力を出せなかった実力者たち(松坂もこのカテゴリーに含められるかもしれない)も、今季は成績アップが濃厚だ。
 投手陣、野手陣共に、今のレッドソックス・ロースターには死角はほとんど見当たらない。今季のアリーグは近年最高レベルと評判だが、その中でもアメリカの識者たちは結局は揃ってレッドソックスを本命に推している。ヤンキースとの力関係ももう完全に逆転した。今季はヤンキースを含むライバルチームたちが、揃ってレッドソックスの背中を追いかけるシーズンとなるのだろう。

 そして、もしもレッドソックスが今季も勝ち切れれば、彼らは「王朝(ダイナスティ)」と呼ばれる新時代を切り開くことになるのかもしれない。
 戦力均等化工作が進む近年のMLBでは、連続優勝はめっきり難しくなった。最後にワールドシリーズ連覇を飾ったのは98〜00年のヤンキース。以降の8年間は、7つの異なるチームが世界一を経験した戦国時代だった(唯一レッドソックスが2度優勝)。

 しかし、攻守にバランスが取れていて、新旧ががっちり噛み合った現在のレッドソックスは、3連覇時のヤンキースに非常によく似たチームである。
勝ち方を知ったベテラン(ポール・オニール、ティノ・マルチネス、スコット・ブローシャス(当時のヤンキース)=バリテック、ローウェル、オティース(レッドソックス))がリーダーとなっていること、献身的で勝負強い選手(デレック・ジーター、バーニー・ウィリアムス(同ヤンキース)=ペドロイア、マイク・ユーキリス)が打線を支えていること、絶対的なクローザー(マリアーノ・リベラ(同ヤンキース)=ジョナサン・パベルボン)が君臨していることなど、共通点を挙げていったらキリがない。
 
(写真:レッドソックスの人気はいまや全米に及び始めている)
 最近では「プレーオフは運次第だ」などと真顔で述べる者がいるが、とんでもない暴論である。世界一になるチームは決まって前述した「リーダー」、「献身的打者」、「クローザー」といったプレーオフに不可欠な要素をクリアしている。ただその力を2年以上に渡って保ち切れる真の強豪が存在しなかったがゆえに、ここしばらくは連覇チームが生まれなかったというだけのことだ。だが今のレッドソックスには、近年の一発屋チームたちと違い、長いスパンで力を保つための下地が出来ているように思える。
 生え抜きの若手は育っているし、一方で大型補強のための資金もある。そういったチームは勝ち続けながら同時に長期視野の育成もできる。総合的に見て、レッドソックスが今後、最強と言われた98〜00年当時のヤンキースに匹敵する実績を残して行く可能性は充分にあると言って良い。

 そして、新時代開始直前(あるいは開始直後と言うべきか)のレッドソックスが、間もなく日本で2008年シーズン開幕戦を迎える。
前述したように、このシリーズには「松坂凱旋」以上の意味がある。日本のファンは見逃すべきではないだろう。「Birth of Dynasty(王朝の誕生)」をその目で見届けるべきだ。
 90年代後半のヤンキースに熱狂したニューヨーカーは未だに自慢気に当時を振り返る。それと同じように、日本のファンもこの開幕シリーズを目撃できたことを自慢できる日が近未来にやってくるかもしれないのだ。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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