まずはおめでとう。3年間、香川のエースだった松尾晃雅が、ボストン・レッドソックスとマイナー契約を結びました。メジャーリーグのマウンドに立てる日が来るかもしれないと思うと、今から本当に楽しみです。

 とはいえ、ご存知の通り、向こうの野球はマイナーリーグもルーキーリーグから3Aまでクラス分けされています。結果を残さなければ、すぐに下部組織への降格が告げられる厳しい世界です。アイランドリーグとは異なり、1回の登板失敗が命取りになるでしょう。本人も分かっているとは思いますが、松尾には心して海を渡ってほしいと思っています。

 異国の地ですから、最初は慣れない環境でとまどうこともあるかもしれません。本人もその点は不安をのぞかせていました。ただ、それを乗り越えれば、アイランドリーグでは味わえないような貴重な経験ができることは間違いないでしょう。投手として、人間としてひと回りもふた回りも成長してくれることを願っています。

 松尾に会ったのは香川にチームが誕生した3年前。コントロールがそこそこで、空振りが取れるピッチャーという第1印象でした。「これは抑えとしての資質があるな」。当時の芦沢真矢監督と相談し、クローザーを任せることにしました。

 しかし、NPBと違い、完全に抑えに固定したわけではありません。たまに先発に起用して完封勝利を飾ったこともありました。僕は現役時代、先発も中継ぎも経験しています。それぞれの役割をこなすことで、投手としてのレベルは確実に高まりました。先発なら先発、中継ぎなら中継ぎで、どう自分のベストに調整していくのか。非常に勉強になったのです。松尾もスターターからクローザーまで、いろいろな状況で投げてもらうことで、投手として年々、ステップアップしていきました。

 そして4年目を迎えた今季、彼のキャンプの課題は変化球の精度を高めることでした。ストレートにスライダー、カーブ、チェンジアップ。これが松尾の持ち球です。キレのあるスライダーにさらに磨きをかけ、カーブを使って緩急をつける。今年こそドラフト指名を勝ち取れるよう、テーマをもって練習を重ねてきました。

 スライダーのキレが悪いと、本人は不満のようでしたが、3月25日の6球団トーナメントでは7回途中まで福岡相手にパーフェクトピッチングをみせました。開幕に向けてバランスが良くなってきており、渡米してもこの調子を持続してくれれば心配はありません。

 向こうのボールは縫い目が高く、きっとスライダーやカーブの指のかかりは良いはずです。ドジャースの斎藤隆がスライダー、レッドソックスの岡島秀樹がカーブを武器に成功したように、松尾が活躍するためのカギは変化球。MAX150キロのストレートを投げるピッチャーはマイナーでもたくさんいます。となれば、変化球とそのコントロールで勝負するしかありません。このキャンプで変化球のレベルアップに取り組んだことは大きなプラスになるでしょう。

 松尾はどちらかといえば神経質なタイプです。アイランドリーグの公式球は中国製のため質が悪く、試合中、よくボールの交換を要求していました。アメリカでもマイナーの試合で使うボールは決していいものとは限りません。表面の感触も日本のボールとは違うでしょう。ただ、そこはアイランドリーグで培った雑草魂で図太く乗り切ってほしいものです。リーグで3年間、取り組んできたように、しっかり準備をすれば、結果は出ると信じています。

 チームとしては昨年15勝した松尾が開幕直前に抜けるのは大きな痛手です。ただ、若手投手にとっては、これほど大きなチャンスはありません。誰が松尾の代わりにエースの座に就くのか。育成面を考えると楽しみなシーズンになるでしょう。NPBのスカウトはもちろん、メジャーのスカウトにも目が留まるような投手を、新たに育てていくつもりです。

 いよいよ開幕は4月5日。みなさんも未来のNPBプレーヤー、メジャーリーガーを見つけに、ぜひ球場に来てみてください。


加藤博人(かとう・ひろと)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1969年4月29日、千葉県出身。87年ドラフト外で八千代松陰高からヤクルトに入団。2年目の89年に6勝9敗、防御率2.83(リーグ8位)の成績を挙げて一軍に定着。故障で戦列を離れた年もあったが、貴重な中継ぎサウスポーとして95年、97年のチームの日本一に貢献した。分かっていても打てないと評された大きく曲がり落ちるカーブが武器。01年に近鉄に移籍後、02年には台湾でもプレーした。日本球界での通算成績は27勝38敗、防御率3.85。05年にスタートした四国アイランドリーグで香川のコーチに就任。現役時代に当時の野村克也監督から学んだ“野村ノート”や自らの故障経験を活かした丁寧な指導で高い評価を受けている。


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